2006年01月30日

優しい煉獄

書名:優しい煉獄
著者:森岡浩之
出版:徳間書店
内容:生物学的には死を迎えた人々が、生前の記憶を仮想人格として保ち、電脳空間
  での仮想現実を共有する世界。わざわざ昭和60年代の不便にしてのどかな世界
  を再現した空間で、人々は日々電脳リソースの料金を支払いつつ、死後の世界を
  楽しんでいる。

  そんな世界で私立探偵を営むこの俺、朽網康雄(現実世界では、脳卒中で死亡)
  は、今日もいきつけの喫茶店「カトレア」で油を売っていた。事務所に戻ると、
  ダイヤル式の黒電話が耳障りな音をたてた。珍しく依頼の電話だろうか?・・
  ・人探しか。そう、人探しにはコツがいる。たとえそれが、仮想現実であって
  も。・・・星界シリーズで一世を風靡した森岡浩之が描く、「まったりテイス
  ト」なSFハードボイルド、新シリーズ。

感想:煉獄、というのはラテン語のpuragatoriumという言葉の訳語で、死を迎えた
  人間が罪の状態にあるか、罪の償いを果たしていない状態にある場合、その霊
  魂が天国に入る前に一時苦しみを得る場所なのだそうだ。「この世」と「あの
  世」の中間というわけである。

  してみるとこの電脳世界、課金が支払われなくなれば保たれていた仮想人格が
  きれいさっぱり消滅してしまう(まさにあの世行き)であるというドライさ、
  そして課金が保たれる分には望む限り穏やかな生活ができてしまうという点も
  含めれば、まさに「優しい煉獄」と呼ぶにふさわしいといえよう。

  だが人間の集まるところにトラブルはつきもの。探偵・朽網康雄のもとには、
  様々な人たちがやってくる。生きていながらわざわざ仮想人格化して逃げ込ん
  てきた夫を探す妻、奇妙な賭けを持ちかけられ、その意味を知りたいと望む
  女性。自分の後を追うように死亡してこの世界にやってきた妻の捜索願、など
  など。いずれも、緻密な謎解きとかアクションとか、まして謎の人工知性の陰
  謀なんかとも何の関係もない、日常の事件である。それが実に味がある。

  ぶつぶつ文句をいいながら、ハードボイルドを気取りつつ探偵業に励む朽網の、
  今後の活躍はいかに?
posted by 半端者 at 02:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トリックスターズL

書名:トリックスターズL
著者:久住四季
出版:電撃文庫
内容:日本で唯一の魔学部を持つ大学・城翠大学。そこで客員教授を務める世界に
  6人しかいないとされる真の魔術師の一人、佐杏冴奈と、そのゼミに所属する
 天之原周(あまね)ら魔学部学生たちが、4月早々謎に満ちた魔術師たちの事件に
 巻き込まれてから2ヶ月。周と親友の凛々子は冴奈に連れられ、大学の付属研究所
 で行われる魔術実験に参加することになった。

 主催者は、冴奈と同じく真の魔術師である「5人目」の人物。人里はなれた陸の孤
 島「嵐の山荘」状態にある研究所で、またも起きる奇怪な密室殺人。方法は?動機
 は?そして犯人は?全ては、魔術師たちの詐術なのだろうか。

 「・・・犯人は、トリックスターだ」という佐杏冴奈の言葉をヒントに周がたどり
 着いた驚愕の真相とは。推理小説をかたどった魔術師の物語、シリーズ第二作。

感想:魔術が科学と同列のものとして、極めて現実的で論理的な体系・現代魔術とし
 て確立している世界での、正当な推理もの・・・であるかのように描かれてるが、
 やはり推理ものとしては展開が単調である。やはり本シリーズの本来の魅力は
 「ミステリをかたどった魔術師たちの物語」といううたい文句の通り、魔術師とい
 うキャラクター設定の面白さにあることを痛感する。

 ことの善悪、といった考え方はあまりこだわらず、ただ「自分が面白いかどうか」
 という一点で活躍する佐杏冴奈と、割と常識人のようでいてやはり世間とずれてい
 る語り手兼探偵見習い役の天之原周と、親友の凛々子とのかけあいが楽しい。しか
 しトリックのほうは早々にネタ切れの気配が。周の魔術師としての才能が本格的に
 開花するのはいつのことか。次回に期待。
ネタバレの話を少々。
posted by 半端者 at 02:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トリックスターズ

書名:トリックスターズ
著者:久住四季
出版:電撃文庫
内容:魔術が存在し、科学と同列のものとして研究されているもうひとつの現代
  社会。日本で唯一の魔学部を持つ大学・城翠大学の入学式で、その大胆な予
  告はなされた。
  「我は、この会場に集まった諸君の中から生贄を選定し、処刑することを宣
  言する」
  ・・・大胆不敵な殺人予告に、魔学部に英国より招聘された客員教授にして
  真の魔術師・佐杏冴奈はつぶやく。「ゲームねえ、なかなか面白そうじゃな
  いか--。」
  そしてその予告どおりの事件が起きたとき、大学は恐怖と混乱の渦に巻き込
  まれる。そして立て続けに投げかけられる巧妙なトリックに、事件は予想も
  しない結末へ向かって流れ出す。
感想:魔術が科学と同列のものとして、極めて現実的で論理的な体系・現代魔術
  として確立しているこの世界において、魔術でできないことは「不可能命題
  (ロスト・タスク、魔女狩りで滅ぼされた魔術師には可能だったこともある
  ため、このように呼ぶ)」と呼ばれ、可能なこととはっきり区別している。
  起きる事件は、単に魔術を援用するだけでは実現不可能な、トリッキーなも
  のばかり。よって、明かされる真相は、いずれも「一定のルールを課せられ
  た魔術の存在」を前提とした、正当な推理もののルールに従っている。

  叙述トリックもうまく織り込まれており、本格的な推理パズラーとしても充
  分面白く読めた。しかし本編の魅力は、個人的には魔術師の設定がとても
  クールであることにあると思う。ことの善悪、といった考え方にほとんどこ
  だわらず、ただ「自分が面白いかどうか」という一点で活躍する探偵役魔術
  師と、敵役であるアレイスター・クロウリーV世。彼らの行動は、どこか
  奈須きのこ氏の作り出した「世界の真理探究のためならば他の一切にこだわ
  らず、徹底したエゴイズムを貫く」魔術師の価値観にも相通じるところが
  ある。著者のペンネーム「四季」は、やはり奈須きのこ氏の小説へのオマー
  ジュなのだろうか?身近にこんな魔術師がいたら迷惑この上ないが、物語と
  してはとても面白い。この世界観を是非続けて読みたいものである。

posted by 半端者 at 01:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

21世紀無差別級数学バトル


書名:21世紀無差別級数学バトル〜近畿大学数学コンテスト問題集
著者:近畿大学理工学部数学教室(編)
出版:ピアソン・エデュケーション
内容:近畿大学で「老若男女問わず、数学が好きな人集まれ!」という精神の
  もと1999年から実施している「近畿大学数学コンテスト」につき、2002年
  11月に実施した第5回までの問題から選りすぐった面白い問題を紹介している。
感想:本当にやさしい問題から一見やさしいながらよく見ると色々考えさせら
  れる問題、また正真正銘の難問まで幅広く登場しており、数学科卒
  (一応修士)になって長い身には、ちょうど良いトレーニングになってい
  る。(本書に限っては、いくら読んでも読破したという実感はわかない。
  何度も解いて楽しめる感じだ。)この中で、心に残った問題をひとつ紹介
  しておく。

それは、数学本来の表現で書くとこうなる。
「自然数1からnまでを要素とする集合から自分自身への全単射は全部でn!個あるが、そのうち不動点がないものの個数を求めよ。」

 この問題は、確か高校のころ3項間漸化式まで作って「ちっともきれいな式にならない!」
と放り出したものであった。今回も恥ずかしながらすぐには気づかなかったのだが、今回
まったくひょんなことから不意に道筋が見えて、解けてしまった。その経緯が面白い。

 漸化式は分かっているので、実際数値を計算するのは今なら表計算ソフトで可能だ。そこで
算式を眺めるのにあきた時、実際に計算してみた。当然すぐ大きくなるので、n!で割ってみた。
・・・と、その数値はものすごい速度で一定の数値に収束している。こんな単純な式で、これだけ急速に収束する級数といえばeがらみしかない・・・と思ってその収束しているらしき数値の逆数を取ったら=2.718・・・まさしくeだ。ならば、きっと1/eの級数展開と関係しているに違いない!

というわけで、その級数展開を途中で打ち切ったものを見たら、まさにそれが解答だった。そこからたどって、もとの漸化式を整理するやりかたも直ちに分かり、これでやっと高校時代からの懸案が解けたというわけである。

今にして思えば、元の漸化式から直接解けて当然というくらい、自然な解放だった。それなのにたどりつくのにこうも時間がかかったのは、本当に不思議である。解法のひらめきというものは、えてしてこういうものなのかもしれない。

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続・わが闘争〜生存圏と領土問題

書名:続・我が闘争〜生存圏と領土問題
著者:アドルフ・ヒットラー/平野一郎訳
出版:角川文庫
内容:いわずと知れた20世紀最大の独裁者・アドルフ・ヒットラーが、あの有名
  な「我が闘争」に続いて書き溜めた、未編集の草稿をまとめたもの。アメリカ
  国立公文書館に納められていたものに、豊富な訳注をつけた完訳版。第一級の
  一次資料というものであろう。
感想:ヒットラーの狂信的なドイツ民族至上主義や手段を選ばぬ現代のテロリスト
  と、アメリカの独善的なアングロサクソン流儀至上主義は、どこか相通じるも
  のがある。独裁者やテロリストの狂信と、己の基準を唯一の正義と信じ切り、
  それを押し通すため暴力に訴えることにいかほどの咎めも感じない大国のおご
  り。その両者にいかほどの違いがあろうか。

  本書は、第一次
  大戦後のヨーロッパ事情に明るくない日本人一般にとってとても読みにくい。
  まして、「あの」ヒットラーの本ということであえて読もうとする気はなかな
  か起きない。だが、言葉の端々から感じられるおぞましい怨念は、我々もとも
  すれば陥りがちな人間心理の暗部であり、現代の我々も一度は直視しておく必
  要がある。知らず知らずに彼と同様な狂気に蝕まれたりはしていないだろうか?
  そう振り返りながら読む価値はあると、愚考する次第である。
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量子のからみあう宇宙

書名:量子のからみあう宇宙
著者:アミール・D・アクゼル
出版:早川書房
内容:量子力学の奇妙な性質、その中核をなす「量子のからみあい(エンタングル
  メント)」とは何か。それは、ひとつの粒子が、まるごと一つの宇宙を隔てた
  別の粒子に瞬時に影響を及ぼすという「ありえない」現象である。ジョン・ベ
  ルは、量子力学が正しい理論であることと、このからみあい(非局所性ともい
  う)が生じていることが、実は同値であるということを純数学的な定理として
  証明した。このため「からみあい」現象の成否が世界中で実験検証され、つい
  にはその存在を支持する強力な証拠が次々に発見されるに至った。
感想:本書は、量子力学を推し進めた数多くの物理学者たちの、ダイナミックなド
  ラマである。

  彼らが実際に書いた論文の図面を豊富に引用しながら、「からみあい」という
  現実世界の枠では理解不能な現象のありさまについて様々な角度から、繰り返
  し説明している。量子力学を勉強すれば必ず登場する著名人、ジョン・ベルや
  アラン・アスペの写真が見られるのも珍しい。
補足:さて、「エンタングルメント」とは実にSFもの、ファンタジーものの心を
  くすぐる素材である。光の速度を超えた宇宙旅行はできないというアインシュ
  タインの相対性理論は、宇宙をくまなく駆け巡りたい我々SFものにとってし
  ばしば「やっかいな敵(笑)」であったが、それを打ち破るための武器になり
  そうなのがこの現象だからである。

  もちろん、いわゆる「相ま」論者(自らの無知・不勉強を棚に上げ、量子力学
  の生半可な知識などを振りかざして「相対性理論は間違っている!」とお題目
  を唱える方々。)の真似をしたのではお里が知れてしまうが、フィクションと
  承知の上でうまく架空の議論を組み立てるには、大変面白い素材だ。

またちなみに、著者アクゼルの本で他に有名な本で、フェルマーの最終定理解決を巡る本がある。てっきりそちらも読了済みのつもりでいたが、実は同系統の別な本(サイモン・ジン著「フェルマーの最終定理」)と勘違いしていたことについさっき気づいた。
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2006年01月29日

百億の昼と千億の夜

書名:百億の昼と千億の夜
著者:光瀬 龍
出版:ハヤカワ文庫JA
内容:古代ギリシャの哲人プラトン、古代インドの王族悉達多王子、そしてイエス
  の弟子にして裏切りものとされたユダ。彼らが幻視した、世界滅亡を暗示する
  不吉な予兆と啓示。

  それらすべてははるかな未来、宇宙全体の滅亡への序曲であった。星の創生か
  ら始まり生命の誕生・人類の発生と文明の加速、そして破滅にいたる壮大な宇
  宙興亡の歴史を巨匠が描いた、最高傑作。
感想:日本SF界が世界に誇る、終末テーマ文学の金字塔。私の長い読書歴の中でも、
  あらゆるジャンルを通してこれに匹敵する感動を与えてくれた本はまれである。
  仏教的世界感に基づき描かれた世界の終末、その虚無観、寂寥観は、キリスト
  教的あるいはイスラム教的世界観や、中華思想に凝り固まった人たちには逆立
  ちしても書けないであろう、まさに時空を彷徨う詩人・光瀬龍ならではの世界
  である。

  海辺に繰りかえし打ち寄せる波のリズムに乗せて星の創生・地球の創生・そし
  て生命の誕生を静かに語る序章。長い旅の果てに訪れた不思議な習慣を持つ村
  でプラトンが幻視した、アトランティス滅亡の真相。覚者(仏陀)となる前の
  悉達多太子が出家して知ることになった、逃れられない終末の運命。そして
  阿修羅王との出会い。ナザレのイエスが救世主とされた裏にあった陰謀。それ
  ら全てが、人類が宇宙進出を果たしたはるかな未来における世界の静かな崩壊
  につながっていく。

  太陽系創生・地球創生に関する描写は1970年代の科学的知見に基づいたものな
  ため、さすがに少々古めかしいが、その格調高い筆致には今なお感動を禁じえ
  ない。特に、「寄せてはかえし 寄せてはかえし」から始まり「夜をむかえ、
  昼をむかえ、また夜をむかえ。」で終わる序章の10数ページは、朗読したくな
  るほどだ。

  なお、萩尾望都によるマンガ版もまた、少女マンガ史に燦然と輝く傑作。

posted by 半端者 at 03:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

坂の上の雲(単行本6冊、文庫本8冊)

本書は、昔出版された単行本版全6巻によりで読んでいる。現在入手できるのは文庫本全8巻なので切り分けが違うことを申し添える。長い書評、ご容赦いただきたい。

書名:坂の上の雲(1/6)
著者:司馬遼太郎
出版:文芸春秋
内容:兄はコサック騎兵を撃破した陸軍騎兵の創設者、弟は日本海海戦の名参謀。
  秋山好古、真之兄弟と近代短歌・俳句の祖である正岡子規。いずれも伊予松
  山藩出身であるこの三人の、青年時代から続く友情と情熱を、日清・日露戦
  争という2つの戦争を経験し激動する明治の時代背景の中で描いた、巨匠
  司馬遼太郎の傑作。1巻目は、三人の幼少時代から日清戦争の勝利までを
  描く。好古はフランス式騎兵隊の創立に奔走し、真之は黄海会戦に士官と
  して参戦。そして正岡子規は病弱を押して従軍記者を志す。
感想:常に激動の時代における日本人の有様を通して、「国家とは、日本人とは
  何であるか」を問い続けている司馬遼太郎独特の歴史観は、今日の文人にも
  未だ影響を与え続けている。

  そのため、どうしたわけか読む機会を逸していた私にとっても、その内容は
  違和感のあるものではない。当時の日本人の息遣いすら伝わってくるような
  司馬遼太郎の文章をじっくりと楽しみつつ、1冊づつ読んでいこう。

書名:坂の上の雲(2/6)
著者:司馬遼太郎
出版:文芸春秋
内容:日清戦争の勝利にわく日本。しかし、これを機会に列強の日本に対する干
  渉はより強くなり、特に露国の圧力により遼東半島の権益は断念することと
  なった。

  かくて、日露関係は着実に悪化の一途をたどる。そんな中、秋山好古は持ち
  前の人柄を駆使して露国を始めとする各国のあらゆる文官・武官からの情報
  を精力的に集め、対コサック騎兵作戦を着々と立案。秋山真之もまた、各国
  の名だたる人物との交流を深め、軍略に限らないあらゆる書物を読破しつつ
  対ロシヤ艦隊戦略に取り組む。

  正岡子規は残り少ない命をかけ、新俳句の文学的完成にまい進。まだまだ東
  洋の弱小国家に過ぎない日本を必死で発展させようとする、多くの文人・武
  人の奮闘は続く。
感想:頻繁に時代を前後し、当時の国家間の争いを善悪という概念に囚われず可
  能な限り公平に論評している司馬史観の魅力もさることながら、小説ならで
  はの人物描写、特に秋山兄弟とその周辺の人となりが生き生きと描かれてお
  り、ページをめくる手が止められない。

  ロシヤ・イギリス・アメリカ・清国の名だたる武官・文官にも一目おかれる
  才覚を発揮する秋山兄弟・対露国交渉に戦争回避の最後の望みをつなごうと
  する伊藤博文らの描写を読むに付け、大国の専横に必死になって対抗し、ま
  だまだ圧倒的に貧しかった日本の独立を守り通した当時の人々の奮闘振りに
  頭が下がるばかりである。

  そして、単行本2巻の終盤、江戸時代の精神を受け継いだ最後の文人ともい
  うべき正岡子規は1902年に病没。その2年後、ついに日露間国交は断絶、戦
  争へと突入することになる。1904年(明治37年)2月6日のことである。

書名:坂の上の雲(3/6)
著者:司馬遼太郎
出版:文芸春秋
内容:日露戦争がついに勃発し、秋山兄弟は陸海軍の幹部として出陣。海にあっ
  ては旅順港の閉塞作戦、黄海作戦、陸にあっては旅順要塞の苛烈なる消耗戦
  など、苛烈な戦闘が続く。両軍共に軍事力・経済力・体力、そして知力の限
  りを尽くす極限状態での戦いには、数え切れないほどの失策・予測不能の事
  態が生じる。

  特に旅順要塞の攻略における陸軍首脳陣の無為無策は、6万を超える将兵の
  損害を出しながらまだなお同じ消耗戦を繰り返す、という醜態をさらした。
  生産力の決定的な不足、精神論に凝り固まる大本営の無能、というハンディ
  を抱えつつ、ロシア側の失策を始めとするいくつかの僥倖にも恵まれて戦い
  はなおも続く。
感想:本巻は日露戦争の序盤から中盤、旅順港の閉塞戦と黄海会戦、また旅順要
  塞攻防戦前半が主題。司馬遼太郎は、ここでも頻繁にわき道にそれ、日本軍、
  特に陸軍の致命的な視野狭窄ぶり、そしてそれが太平洋戦争時代にまで引き
  継がれたことの不幸を厳しく指摘している。近代戦において情報と、物資の
  補給というものがいかに重要であるかということが、特に陸軍においては決
  定的に欠如していることを、司馬は「智能上の欠陥」とすら呼んで批判して
  いるのは印象的である。

  特に、旅順攻略にあたって203高地を早期に攻略していれば戦略的目的
 (旅順艦隊の撃滅)は容易に達成されていたのにも関わらず、しかもそのこと
  は日本側の秋山らが指摘していたにもかかわらず、硬直的思考しかできなか
  った乃木将軍ら首脳陣が堅固な要塞本体への正面攻撃という愚の骨頂とも
  いうべき命令を出し続けたことには、怒りを通り越してあきれてしまう。

(この乃木将軍らに対するネガティブ評価には、異論もあることも付言する。)

書名:坂の上の雲(4/6)
著者:司馬遼太郎
出版:文芸春秋
内容:本来の戦略目標が何かも忘れ、ただ目先の命令にのみ囚われて無意味な
  自殺的攻撃を繰り返す、乃木将軍率いる第三軍。ついに決着を見る旅順攻
  略、満州の地における激戦、そして次第に迫るバルチック艦隊。何千、何
  万人もの将兵の命を犠牲にしながら、未だ戦争に終わりは見えない。
感想:本巻は悲惨きわまる旅順要塞攻防戦の後半とその決着、バルチック艦隊
  の苦難に満ちた大遠征、そして北方での秋山好古率いる騎馬軍団が参戦す
  る攻略戦が主題。旅順攻防戦における焦眉は、あれほどの無為無策をさら
  けだした責任者たる乃木将軍も、その下の無能参謀たる伊地知も、一切責
  任を取ることがなかったことだろう。まさにこの後の日本陸軍の醜態・ひ
  いては現代日本の組織的問題点がここに既に現れている。

(繰り返すが、この乃木将軍らに対するネガティブ評価には、異論もあることも付言する。)

書名:坂の上の雲(5/6)
著者:司馬遼太郎
出版:文芸春秋
内容:インド洋を東に進み、次第に近付くバルチック艦隊に身構える中、陸で
  は日露戦争の関が原ともいうべき総力戦が奉天で火蓋を切った。錬度では
  決して引けを取らない日本軍ではあったが、各地で消耗戦を強いられた日
  本軍にはもはや余裕はない。薄く伸びきった戦線、目に見えて落ちる戦力。
  それでもこの戦いに勝利しなければ、日本に未来はないのだ・・・
感想:本巻は、石炭の補給ひとつもままならないまま苦難に満ちた遠征の結果
  インド洋までたどり着いたバルチック艦隊のその後、ロシア内部で革命分
  子と接触し様々な手段でかく乱を図ろうとする大日本帝国初の諜報活動家
  ・明石元次郎の活躍、そして奉天会戦での激戦を描く。

  興味深かったのは、明石元次郎が意外なほど堂々と本名での活動にこだわ
  っていたこと。諜報活動といえば隠密が基本であるはずなのに、彼は宿を
  取るときにすら本名を通している。彼自身が直接情報収集に関わるといっ
  たことをしたのではなく、協力者への支援が中心だったからこそ、それで
  済んだのだろうが、当時まだまだ諜報・謀略活動の重要性があまり知られ
  ていなかった中にあって彼の活動はユニークであった。

  情報が世界を制することを理解していた彼のような人間がもっと日本に増
  えていたら。また、日露戦争後その勝因だけでなくロシアの敗因まで含め
  てきっちり分析し教訓にすることが、大日本帝国国民の意識としてなされ
  ていたなら、その後の日本はもっと賢明な道を歩めたかもしれない。

書名:坂の上の雲(6/6)
著者:司馬遼太郎
出版:文芸春秋
内容:奉天での決戦は、ロシア側の数多い失策・日本に同情的な国際世論の助
  けもあり事実上日本の大勝と認識された。しかし、未だ強大なバルチック
  艦隊は健在である。ついに日本海を臨む位置にまでたどり着いたバルチッ
  ク艦隊は対馬海峡と津軽海峡、どちらのルートをたどりウラジオストック
  へ向かうのか・・・その判断を誤れば、同艦隊の阻止は不可能。

  迷走する諸将官の憶測をよそに東郷は迷わず「対馬海峡にて待つ」と決断
  した。そしてそれは見事に当たり、ついに世界の海戦史上に残る日本海海
  戦が勃発する。敵を一隻たりともウラジオストックに向かわせること無く
  殲滅せよ、という不可能事に、天才・秋山真之の練りに練った戦略は功を
  奏するのか。日本の命運は、まさにこの一戦に託された。

  司馬文学の最高傑作が、ここに完結する。
感想:従来の常識を破る丁字戦法は、バルチック艦隊司令官ロジェトウェンス
  キーの戦術家としての力量の無さ、「天気晴朗なれど波高し」と記録され
  たように良好な視界と砲撃の力量がものを言う波浪の高さ、その他もろも
  ろの天佑に助けられ、見事に成功。日本海海戦は、史上まれに見る連合艦
  隊の完勝に終わる。

  かくて、日露戦争はアメリカの仲介にて、日本勝利という判定のもと終戦
  となった。だが、日本はこの薄氷を踏むようなきわどい勝利がまさに天佑
  であったことも、無数の失策から得られたはずの数え切れないほどの教訓
  も、何一つ充分に生かせないまま勝利に酔った。その結果、日本は急激に
  精神主義に傾き、後戻りのできない軍国主義へ突っ走ることになる。

  この戦争は、日本という国の明治以降の形を決定付ける戦いだった。4年
  3ヶ月もの長きにわたる執筆を通して、司馬遼太郎はこのことを絶えず意
  識し、膨大な手間をかけて明治日本の姿を活写してみせた。まさに歴史に
  残る傑作といえるだろう。

  ちなみにこの執筆終了当時、司馬遼太郎は49歳になったばかり。つまり、
  高々45歳ごろからこの大著をものしたことになる。・・・すごい。

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ヒストリエ(既刊3冊)

書名:ヒストリエ(既刊3冊)
著者:岩明均
出版:講談社
内容:「寄生獣」で知られる奇才・岩明均が、デビュー前から構想していた大長編。
  マケドニアの英雄・アレクサンダー大王の書記官エウメネスの波乱に満ちた生
  涯を軸に、紀元前300年代の古代ギリシャ世界の壮大な歴史を描いていくこと
  になる。
感想:マケドニアの英雄・アレクサンダー大王、その書記官の名前をエウメネスと
  いう。彼については、実はアレクサンダー大王が死去した後の後継者争いの時
  期以降を除き、あまり詳しい伝記が残っていない。書記官として、彼自身は
  「歴史を記録する側」の人間だったからだろう。それだけに、岩明氏は少ない
  記録をもとに大胆な想像力を持って、少年時代から始まる彼の驚くべき波乱に
  満ちた生涯を、壮大なスケールで描こうとしている。

  まだ、単行本でたったの3巻しか出ておらず、いったいどれほどの大長編にな
  ることか見当もつかない。とにかく今は、月一回の連載が毎月楽しみでしょう
  がない。分厚いアフタヌーンを毎月買うだけの価値はある。
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星のダンスを見においで

書名:星のダンスを見においで
著者:笹本裕一
出版:ソノラマノベルズ
内容:横須賀のどぶ板通りで骨董店を営む、ジャック。自称元米軍所属、外人
  部隊を渡り歩いたというこの怪しい男、実は地球で隠遁生活を送る歴戦の
  宇宙海賊だった。

  ひょんなことからそれを知った店の常連にして全くフツーの女子高校生・
  冬月唯佳(とつき・ゆか)は、夏休みの予定を変更し、ジャックとともに
  宇宙に乗り出す。目指すは、銀河の果てにあるという「笑う大海賊の秘宝」。
  同じお宝を狙う同業者の面々や連合艦隊を退け、唯佳とジャックは目的地
  にたどり着けるのか!?(以上、ほぼ裏表紙のあおり文句どおり)
感想:作者も書いているとおり、これはまったく「宝島」、それも1978年にテレ
  ビで放映された出崎徹演出のアニメ版のイメージで書かれた作品である。
  昔出ていた文庫本版が出たのがもう10数年前のことで、それに現時点で不自
  然になってしまった描写の書き換えや新たなシーンの加筆もあって、大幅
  増量を遂げたとのこと。

  古い作品だが、素朴なスペースオペラとしての面白さは今でも充分楽しめる。
  主人公の唯佳の普通っぷりと、そのくせなぜか見事に海賊たちの中に溶け
  込んでしまう異常な適応能力。自分の欲望に忠実なばかりの荒くれ者なくせ
  に、妙に律儀で憎めない海賊たち。

  そして、宇宙マニア笹本氏の面目躍如とも言える、架空でありながら緻密な
  描写の積み重ねにより迫力のあるリアリティを感じさせる、宇宙戦闘描写。
  あれだけ派手な戦闘をしたのに、結局目だった死人は誰一人いないというの
  もまた、いい。やはり、娯楽作品はこうでなくてはいけない。
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2006年01月27日

渡邉恒雄・メディアと権力

書名:渡邉恒雄・メディアと権力
著者:魚住昭
出版:講談社
内容:総理を動かし、世論を操る「一千万部」の独裁者〜力ある者は篭絡し、敵は
  必ず叩き潰す。東大の共産党時代から読売新聞社長にのぼりつめるまで、稀代
  のマキャベリスト・渡邉恒雄がいかにして権力を奪取してきたのか。児玉誉士
  夫、中曽根康弘との蜜月、社名を帯びた政官界工作、日韓条約交渉での暗躍と
  いった戦後の裏面史の全貌を、徹底取材で明かす。
感想:誰もが知る読売のドン、渡邉恒雄。世の中でこんなに恐れられ、嫌われてい
  る人間はそういないが、反面それに見合ったカリスマ性を持った人物であった
  ことは確かである。これを読むと、若いころのエネルギッシュな渡邉にはそれ
  なりに共感できる面もあるが、年を経るに従いどんどんそのあさましい権力欲
  をむき出しにしてくるところにはうんざりさせられる。人間関係のどろどろと
  した汚さに自分もどっぷりつかって、人を利用するだけ利用し、意に染まぬも
  のはどんな汚い手をつかってでも叩き潰す。

  その所業にわずかの痛みも感じるどころかむしろ誇りに思っているのがよくわ
  かる。やはり、到底好感をもてるようにはなれそうにない、「嫌なやつ」だ。
  そして多くの人には周知のとおり、2004年末のプロ野球選手を軽視する態
  度をきっかけにした反発から、2005年現在ナベツネは事実上表舞台から姿
  を消してしまったようである。まさに因果応報というべきなのかも知れない。

  2006年現在、またちょくちょく顔を出しているようである。前より少しは
  丸くなったようにも見えなくも無いような・・・いやいや、気のせいに違いない。

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ファインマン物理学を読む(力学と熱力学を中心として)

書名:ファインマン物理学を読む(力学と熱力学を中心として)
著者:竹内薫
出版:講談社サイエンティフィク
内容:朝日カルチャーセンターで行われた教養講座をもとにまとめられた、世界的
  に定評のある大学学部生向け物理学教科書の名著、「ファインマン物理学」
  案内本の3作目。
感想:熱力学の記載については、ファインマンにしてはめずらしく切れ味の悪い書
  き方が目立つ、との竹内氏の指摘には、うなずかされた。基本的にファインマ
  ンは、物理学の本筋は量子力学と相対性理論と、それを支える数学理論である
  としているようで、単純に古典的な熱力学の説明をする場合にも「ここではこ
  う説明しているけど、本当は量子力学の見地からこう説明するのが正しい。」
  という論調で説明している。

  それだけに、純粋な古典論の世界で閉じればそれなりにすっきりした説明が
  できるものを、妙に歯切れの悪い解説になってしまっているらしい。

大学学部生当時、生協の本屋に並んでいた「ファインマン物理」は一種の憧れであった。こうして一種のスターターガイドを一読したわけだが、それでもその深い内容にどれだけ近付いたのやら、心もとない。やっぱり高嶺の花としかいいようがない。

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ファインマン物理学を読む(電磁気学を中心として)

書名:ファインマン物理学を読む(電磁気学を中心として)
著者:竹内薫
出版:講談社サイエンティフィク
内容:朝日カルチャーセンターで行われた教養講座をもとにまとめられた、世界的
  に定評のある大学学部生向け物理学教科書の名著、「ファインマン物理学」
  案内本の2作目。前作では量子力学と相対性理論の項にスポットを当てていた
  が、今回は電磁気学。古典的物理学の世界ではあるが、内容は最初からマック
  スウェルの方程式から入って「基本はあくまで場の理論」であるという点を強
  調しつつ、相対性理論との関連を軸として首尾一貫とした講義を展開している。
感想:昔に確かSFマガジンだったか、電磁気学についてのパラドックスをトピッ
  ク的に解説した記事を読んだ覚えがある。その内容は

 「同じ向きに電流が流れている2本の平行な電線は磁場により引き合う。しかし
 電子の流れと同じ速度で動いている観測者にとっては、静電場を生じた2つの
 棒状電荷が並んでいるとも見えるので反発するともいえる。この矛盾をどう説明
 する?
 →一方の電線を走る電子に観測系をおくと、反対側の電線においてプラス電荷の
 密度がローレンツ収縮を起こして高くなり、全体としてプラスの電荷を持つこと
 になるから結局引き付けあうことになり、矛盾はない」

 というものだった。これは電磁気学の成果を出発点とすれば光速度不変の原理が
 必然であることを主張する、極めて優れた思考実験である。この説明が、ファイ
 ンマン物理学のものだと今回初めて知った。

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ファインマン物理学を読む(量子力学と相対性理論を中心として)

書名:ファインマン物理学を読む(量子力学と相対性理論を中心として)
著者:竹内薫
出版:講談社サイエンティフィク
内容:朝日カルチャーセンターで行われた教養講座をもとにまとめられた、世界的
  に定評のある大学学部生向け物理学教科書の名著、「ファインマン物理学」の
  案内本。難解な物理学の法則を驚くほど簡潔に、分かりやすく、その本質を語
  っていることで定評のある教科書だが、それでも一般教養本として取り組むに
  は分厚すぎるし、数学の部分とてなかなかに手ごわい(専門の物理学者を目指
  す学生に向けて書いているんだから当然ではあるが!)。

  そこで本書では、本書のクライマックスともいうべき量子力学と相対性理論に
  ついて述べたくだりを軸として、数式はあまり多く出さず簡潔に触れるに留
  め、その魅力をコンパクトにまとめて紹介している。
感想:あのあこがれの「ファインマン物理学」へのスターターガイドというところ
  であろうか。これを見ているうちに、本物に挑戦したくなって来た。・・・・
  といいつつも、なかなかそうはいかない。結局この後、この本の続編ともいう
  べき「電磁気学編」「力学・熱力学編」を読むことで満足しているところは、
  軟弱のそしりを免れない。
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量子宇宙への3つの道

書名:量子宇宙への3つの道
著者:リー・スモーリン
出版:草思社
内容:宇宙を考えることは、時空を考えることだ。時間とは、空間とは
  何か?古来、科学者はこの謎に挑み続けた。20世紀初頭に現れた
  相対性理論と量子論は、時空の見方を根底から覆してしまった。そ
  して21世紀。いま、その二つの理論を統合する試みが、さらに革
  命的な答えをもたらそうとしている!ホーキング理論から超ひも理
  論まで、最新の宇宙物理学の到達点を一望する、格好の入門書。
感想:量子重力論に草創期から取り組んできた著者が、最新の宇宙
  物理学の成果を分かり易く解説。宇宙を構成するのはプランク
  スケールの「振動するひも」であるとしてあらゆる相互作用を
  説明しようとする超ひも理論と、時空そのものが極めて小さな
  離散的要素の組み合わせであり、その相互関係(ネットワーク)
  こそが物理現象の本質であると説明するループ量子重力論につ
  いて多くのイメージ図やアナロジーを用いて分かりやすく説明
  している。

  著者は楽観的に、これら2つの理論は相互補完的に統一的な理
  論に成長していき、21世紀末には高校生にも教えられるよう
  な量子重力論になるであろうと予測している。相対性理論や量
  子力学がたどった流れを思えばあながち無茶な予想とは言い切
  れないが、それでも少々楽観的に過ぎるか。
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2006年01月26日

タイタニック撃沈(辛口評価あり)

書名:著者:田中光ニ
出版:光文社文庫
内容:タイタニックといえば1912年の処女航海で氷山に衝突して沈んだ豪華
  客船だが、ここで言うのはその27年後、1939年に就航し、タイタニックU
 (TU)と命名された船のことである。1943年、豪華客船TUは、三千人
  の将兵を乗せてNYを出発した。しかし戦局の悪化した中ヒトラーにより
  Uボートへ出された指令は、この船の撃沈を命じるものだった。

  ところが、TUを捕捉したUボートの艦長ブリーンは、なぜか攻撃直前
  に魚雷発射を中止した。40年後、その謎を追う作家イーサンは、アメリ
  カ人留学生ジュリーと共にその謎に挑むのだが、それを妨害する何者か
  が現れ、そして・・・
感想:辛口評価です。あくまで半端者個人の勝手な感想であり、普遍的な
  ものではないことを改めてお断りしておきます。

  本編の見所は、ブリーン艦長の航海日誌を追いつつ語られる、Uボート
  の過酷な戦いの実態である。これは読み応えがたっぷりだったが、さて
  小説全体としてはどうかというと、正直、いまひとつの観がぬぐえなか
  った。

  なぜブリーンが攻撃をためらったのか。その点に対する説明が実にあり
  がちで底が浅い。それ以外の謎である「ヒトラーがタイタニックUの撃
  沈に執着した理由」も、「はあ、そうですか」という程度で、意外性も
  さほどない。

  田中光ニといえば数多くの傑作冒険小説をものしており、好きな作家の
  一人である。その作品としては、実に残念な内容だった。

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映画「交渉人・真下正義」

半端者は映画も結構見るのだが、こっちはあまり感想メモなど残していない。
だが、2005年5月ごろ見たこの映画についてはなぜかちゃんと日記が残っている
のでこちらのブログにも転載する。

結論から言うと、これは面白い!クリスマスイブの夜、わずか5時間そこそこ
に生じる正体不明のテロリスト「弾丸ライナー」による地下鉄ジャック。
交渉人・真下との息詰まる駆け引き、その間に事故防止へ向けて奔走する
地下鉄マンたち、犯人の手がかりを求めて活躍する交渉チーム・捜査チーム
の面々。いずれのキャラクターも性格づけがしっかりし、誰一人無駄な配役
がない。踊る大走査線という作品世界からスピンアウトした交渉人・真下
を軸に、見事なエンターテインメントに仕上がっていると思う。
以下、ネタバレ感想
posted by 半端者 at 02:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 映画評とか。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エンプティー・チェアー

書名:エンプティー・チェア
著者:ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子・訳
出版:文芸春秋
内容:全身麻痺状態の重度身障者にして天才的犯罪学者リンカーンライム
  と、その手足となって働く頼れる美貌のパートナー・アメリアサック
  ス。このコンビが凶悪なる知能犯に立ち向かうシリーズのうち、第1作
  「ボーン・コレクター」「コフィン・ダンサー」に続いて2000年に出
  版された、第3作。

  前記2作ではニューヨークを舞台としていたが、今回は南部の田舎町
  が舞台。手術を受けるためにノースカロライナ州を訪れていたライム
  のもとに、田舎町タナーズコナーで起きた連続誘拐事件への協力要請
  が来る。知らない土地、慣れない環境の下、彼は不本意ながら仕事に
  とりかかるのだが・・・
感想:このシリーズは前2作、そして最近作のイリュージョニストまで読
  んでいるが、本来ならシリーズの順序を追って読むほうがいいようだ。
  理由は、本シリーズは「リンカーン・ライムとアメリア・サックスが、
  それぞれ自分の過去を見つめながら互いの関係も見直しつつ生きがい
  を見つけていく、人間ドラマ」としての性格をも持っているからだ。

  本作では、成功率が必ずしも高くはない特殊な手術を受けようとする
  ライムと、それを見守るアメリアの不安が、基調として色を添えてい
  る。注目作である。ちなみに、エンプティー・チェアとは一種の精神
  療法の名前。患者の目の前に「空っぽのいす」を用意し、患者にはそ
  こに「自分が何か伝えたい相手が座っている」と想像してもらい、そ
  の人に対してどんなことを話すのか、想像させるというゲームだそう
  だ。物語では容疑者の少年に対してこれを施すシーンがある。

posted by 半端者 at 01:50| Comment(0) | TrackBack(1) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

デセプション・ポイント(上/下)

書名:デセプション・ポイント(上/下)
著者:ダン・ブラウン/越前敏弥・訳
出版:角川書店
内容:国家偵察局員レイチェルの仕事は、大統領へ提出する機密情報の分析。
  現在、ホワイトハウスは大統領選の渦中にあり、現職と争っている対立候
  補は、なんと彼女の父だった。

  選挙戦はNASAに膨大な予算を費やす現政府を非難し、国民の支持を集
  めている父が有利に進めていた。そんなある日、レイチェルは直々に大統
  領から呼び出される。NASAが大発見をしたので、彼女の目で確かめて
  きて欲しいというのだ。状況が飲み込めないままレイチェルが連れて行か
  れたのは、北極だった。氷棚に埋まった巨大な隕石から等脚類の化石が大
  量に発見されたのだ。

  これは地球以外にも生命が存在する証拠であり、まさに世紀の大発見だっ
  た。ここで、選挙戦は一気に逆転し、大統領が対立候補の娘である自分を
  情報分析官として選んだ理由を悟る。だが、科学者チームと調査を進める
  うちに、レイチェルは信じられない謀略の深みにはまり込んでゆく・・・
感想:あの「ダ・ヴィンチ・コード」、「天国と地獄」で一世を風靡したスト
  ーリーテラー、ダンブラウンの日本最新刊である。NASAによる科学上
  の大発見と、それを巡っての大規模な陰謀。誰が嘘をついているのか、何
  が真実なのか。二重、三重に張られた巧みな伏線と、綿密な調査に基づく
  科学的背景描写を伴ったスピーディーなドラマ展開は、圧倒的な迫力の一
  言。上下巻を一気に読みきった。

  サスペンス小説として文句なしの出来といえる。だが少々不満がある。
  それについてはネタバレになるため、隠すことにする。
以下、ネタバレ感想
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2006年01月25日

日本人なら知っておきたい武士道

書名:日本人なら知っておきたい武士道
著者:武光 誠(明治学院大学教授)
出版:河出夢新書
内容:新渡戸「武士道」から抜け落ちた、重大な観点とは?「潔く死ぬ」という
  精神は、武士道の本質なのか?武士の起こりにまで遡って検証すれば、江戸
  期以後為政者によってゆがめられた武士道の意外な全容が明らかになる。

  誤解に満ちた武士道を、気鋭の学者が探求する!(表紙の紹介文より)
感想:「武士道」といえば新渡戸の本が有名であるが、本書ではその内容を分析
  し、キリスト者である新渡戸氏流の整理のしかたに一定の理解を示しつつも、
  その内容は中国の儒教的な考え方、特に朱子学を機軸としてアジア全体の思
  想とひとからげになっている問題点を指摘する。

  その上で、日本古来の神道的世界観を踏まえて著者独自の「真の武士道」を
  紹介。近世に近づくにつれて政治的な理由から少しづつゆがめられたり不自
  然に美化されたりしてきた歴史を踏まえ、和の心を再確認するべきであると
  説く点には、共感できる点は多々ある。ただ、手塚治虫の漫画に関して命を
  軽視していると批判的にコメントしている点には同意しかねる。
posted by 半端者 at 02:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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