2006年02月26日

キリスト教は邪教です!〜現代語訳「アンチクリスト」

書名:キリスト教は邪教です!〜現代語訳「アンチクリスト」
著者:F.W.ニーチェ/適菜収・訳
出版:講談社α新書
内容:1844年に生まれ、19世紀最後の年1900年に没した天才的哲学者F.W.ニーチェ
  が1888年に書き上げた、20世紀哲学界に計り知れない巨大なインパクトを与えた一
  冊。実存主義の見地から、西欧社会における精神的支柱として2000年間も続いてき
  たキリスト教を徹底的に批判し、これを人類社会においてあらゆる不幸をまきちら
  した害毒であるとして切り捨てた、恐らくは当時としてはすさまじいほどに衝撃的
  な本。難解な文語的表現で書かれたオリジナルを、若き哲学者が現代語へ大胆に翻
  訳した。
感想:十字軍による数多くの文化破壊や、アメリカ大陸において行われた神の名の下で
  の大量虐殺と文明破壊。理性を持って世界を見ることを否定し、ただ盲目的に教会
  の権威に頭を垂れることのみを強制し、それに疑問を呈するものには容赦なく残虐
  な仕打ちをすることを奨励してきた、血塗られた教会の歴史。それらを見ればキリ
  スト教の戦闘的性格がよくわかる。

  しかし、19世紀末において既に、キリスト教そのものが持つ不合理性・欺瞞・卑劣
  さに対するこれほどまでに的確な批判が、それもキリスト教の影響下にあるヨーロ
  ッパ世界に生きた哲学者によりなされているということは、新鮮な驚きである。
  100年も前に、キリスト教原理主義者の危険性・ジョージブッシュ大統領の暴虐を
  予言している、現代人にとって是非読んでおくべき本であると思う。(翻訳という
  フィルターの存在を忘れてはいけないが・・・)

  しかし、もちろん内容を無批判に読むべきではない(ニーチェ自身、これを鵜呑み
  にするような読み方は望まないに違いない!)。理性的思考を過度に重んじる余り
  人間の弱さに対する寛容な見方を乱暴に切り捨てているところには、納得しがたい。
  キリスト教の不合理な精神性を非難しながら、一方で合理的な判別ができるとは限
  らない「高貴な精神の有無」の名のもとに先験的な階級差別をする不合理性にも警
  戒すべきである。

  そのほかあからさまなユダヤ人排斥が恐らくはヒットラーの思想的支柱となったこ
  とは明らかである。以上の疑問点があるものの、問題意識の本筋には大いに共感で
  きる。
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怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか

書名:怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか
著者:黒川伊保子
出版:新潮新書
内容:宣伝文より〜ゴジラ、ガメラ、ガンダム等、男の子が好きなものの名前にはなぜ
  濁音が含まれるのか。カローラ、カマロ、セドリックなど、売れる自動車にC音が
  多いのはなぜか。キツネがタヌキよりズルそうなのはなぜか。全ての鍵は、脳に潜
  在的に語りかける「音の力」にあった!

  脳科学・物理学・言語学を縦横無尽に駆使して「ことばの音」のサブリミナル効果
  を明らかにする、まったく新しいことば理論。

感想:コピーライターは、長年の経験とカンにより「売れる商品」のキャッチフレーズ
  や商品名を作るための独特なノウハウを蓄積しているが、その根拠はなかなか体系
  的に明らかにはなっていない。

  そこで著者は、これらの根拠を「ことばの意味論的分析」ではなく、「ことばの音
  が脳に直接働きかけた結果生じる印象の質」(クオリア)と、「クオリアの組み合
  わせにより潜在脳(右脳)へ与える印象」(サブリミナル・インプレッション)の
  関係により説明できるとし、まず各種母音・子音が口蓋内で発音される際に生じる
  物理的な刺激がもたらす興奮をクオリアとして特徴付ける。そして実際の単語につ
  いてのサブリミナルインプレッションを、16のイメージ語群に対応する傾向の強
  弱からなるレーダーチャートとして表示し分析する「イメージ分析法」を提唱して
  いる。

  さらに筆者は、このサブリミナル・インプレッションの研究は子音と母音が常時セッ
  トになっており、かつ音素が5母音×10子音(子音をつけない状態も含めて)とい
  う数学的体系を持つ日本語でこそ効果的にできる、とも書いている。その他日本語
  は母音単独で意味を持たせることのできる他に類のない言語であること、濁音と清
  音という子音の区別がクオリアと対応していることなどを、「日本語のすばらしさ」
  であるとし、その精密さに比べれば英語は極めて粗雑であるとすら主張している。

  その辺になると少々日本語礼賛が過ぎる気もするが、ともかく他に類のないユニー
  クな言語分析であるとは言えそうだ。個々の音素が持つクオリア間の相互作用につ
  いては、少々恣意的にも見えるのでさらに多くの実証データをそろえる必要がある
  と考える。特に、音素と脳内興奮パターンの相関関係についてもっと詳しいデータ
  が必要ではないかと思われる。
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ホンモノの思考力〜口ぐせで鍛える論理の技術

書名:ホンモノの思考力〜口ぐせで鍛える論理の技術
著者:樋口裕一
出版:集英社新書
内容:本書は、論理的思考法・議論法のノウハウを「二項対立思想・型思考・背伸び
  思考」といった著者独自の方法論に整理して、知的に見える話し方や他人の意見
  の知的な分析方法、スルドイ質問や反論の仕方などを伝授するものである。最終
  的に「ホンモノの思考力」を手に入れることを目指すものだが、まずは型に従い、
  「口癖トレーニング」から始めてみよう。見よう見まねで言葉にするに従い、次
  第に考え方の基本・論理の技術が身について来る。そしてそれが結局は、借り物
  でない自分自身の思考様式として使いこなせるようになるのだ。

感想:ホンモノの思考力とは何か。一般的に通用する思考力とは、やはり論理的な思
  考力である。筆者は、二項対立に還元することなくものごとを扱う東洋的な思考
  様式にも価値はあるとしながらも、それでは物事を厳密にとらえることはできな
  い、としてまずは二項対立という型から入って西欧流論理的な議論の定型的ノウ
  ハウを身につけるべきである、と整理している。

  それが日本における教育で欠けている、自分で考える力の育成の基本として必要
  なものだと説く。そしてより具体的に、「主張」「意見表明」「根拠」「結論」
  という基本的な論述の型を説明し、さらに重要な慣用句

  「確かに・・・である。しかし、・・・という面がある。」とか、「理由は3つ
  ある。ひとつは・・・」とか、「・・・の場合は・・・だが、これはそれにあて
  はまらない・・・なケースである」といった表現の使い方を説明している。

  このように説明が大変実践的で、文章を作るにあたって、もしくは作った文章の
  分かりやすさを検証する上でも役に立つ本である。

  表面的にディペートテクニックを説くより、このように型の根拠から説明したほ
  うがずっと西欧流論理的思考の重要さが納得できる。だがひとつ付け加えるなら、
  西欧流では二項対立のベクトルをとかく単純な次元のみに落としてしまいがちだ
  という問題点がある。近代の日本は、その弱点について論理的な指摘をこれまで
  充分にしてこなかったのではなかろうか。

  是非これを乗り越えて、世界に通用する東洋的論理思考を身に着けたいものである。
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2006年02月21日

年金2008年問題〜市場を歪める巨大資金

書名:年金2008年問題〜市場を歪める巨大資金
著者:玉木伸介
出版:日本経済新聞社
内容:合計特殊出生率が1.29にまで低下し、日本の少子・高齢化は世界に類のない速さ
  で進行している。その結果高齢者所得保障の重要な要である公的年金制度は危機
  的状況にある。本書は、高齢化に基づく拠出と負担のバランス問題と並んで大き
  な問題である、公的年金積立金の運用について論じている。2008年より、未だ残
  っていた財政等融資資金への預託金(簡単に言えば、国家が法的に全面的な利息
  を保障しているもの)が全額償還され、150兆円近くの公的年金積立金全て、民
  間の金融・資本市場で運用されることとなる。本書は、特にその点に焦点をあて、
  通常の民間ファンドにない大きなリスクを持つことを指摘し、論議の必要性を訴
  えている。
感想:私は以前、国による公的年金問題についての研究プロジェクトに参加した経験
  があり、昨年ようやく決着した厚生年金保険改革についても関心は払っていた。
  ただし専門範囲の関係上、どちらかというと拠出と給付のバランスが高齢化に基
  づきどう安定性を失っていき、それに耐えるため「望ましい運用パフォーマンス
  はどれくらいか」という見地に偏っていたため、「巨大資金を運用することその
  ものが持つ問題点ということは認識が甘かったと感じる。

  何か運用するために取引しただけで市場が裏腹に動くこと、公的年金資産で配当
  利息を得るということは、民間のGNPを一部引き去ることと同値であること。
  運用手段を国内金融市場だけに限るかどうかが、国際政治的な問題と切り離せな
  いこと。

  忘れやすいが、いずれも重要な留意点であることを痛感した。
posted by 半端者 at 02:35| Comment(0) | TrackBack(1) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

企業福祉の終焉〜格差の時代にどう対応すべきか

書名:企業福祉の終焉〜格差の時代にどう対応すべきか
著者:橘木俊詔
出版:中公新書
内容:日本の企業は、退職金、社宅、企業年金、医療保険や公的年金といった社会保険
  料の負担など、従業員にさまざまな福祉を提供してきた。しかし、会社の規模によ
  って充実度が異なったり、正社員と非正社員とで利用資格に差があるなど、企業福
  祉が国民の不平等感を高めているのも事実である。

  本書では、企業が福祉から撤退してよいと主張し、企業福祉に代わり、国民全員が
  充実した福祉を教授するための方策を提言する。

感想:企業福祉は、現在極めて限定的なものを残して着実に縮小しつつあるのが現状で
  ある。本書は、生活形態の多様化が進んだ今日では、雇用者側にきめの細かい福祉
  サービスの責任を任せることに無理があるとし、縮小を是認する。その上で、税方
  式、ないしは限定された社会保険方式による最低水準の所得保障・医療保障を、確
  実に行う制度への移行を提案している。

  それが結果として労使双方の満足度を向上させるであろうというのが、主な主張に
  なっている。しかしながら、制度変更時の莫大な未償却債務(別な資料によれば、
  過去勤務期間に対応する不足だけで400兆円を超えるはず)の処理、140兆円を超え
  る積立金の使い道、いずれについても数値を伴う具体的な提案としては未熟といわ
  ざるをえない。提言というより、検討の出発点に立ったレベルと大差ないと感じる
  のは、私だけであろうか。
posted by 半端者 at 02:21| Comment(1) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

言語の脳科学〜脳はどのようにことばを生み出すか

書名:言語の脳科学〜脳はどのようにことばを生み出すか
著者:酒井邦嘉
出版:中公新書
内容:言語の規則たる文法は、どのようにして構成されたのか。その問いに対して、
  ノーム・チョムスキーは「人間に特有な言語能力は、脳の生得的な特徴に由来
  する」と主張し、有名な「生成文法論」を唱えた。この説は現在でも賛否両論
  あるが、筆者はこの考えを支持し「文法は人間が意識して規則的に作り出した
  のではなく、自然法則に従うものである」とし、昨今の脳科学上の成果はこの
  ことを支持する結果を少しづつ得ている、と説く。

  本書は、失語症や手話の研究を交えて、言語という究極の難問に脳科学の立場
  から挑むものである。
感想:手話には日本語に対応する手話・英語に対応する手話があるのは知っていた
  つもりであるが、実は同じ日本語ベースの手話でも、完全なろう者(ネイティ
  ブ・サイナー)にとっての自然言語として独自の文法に従って生成した「日本
  手話」と、普通の音声日本語と1対1対応する形に語順が整理された「日本語
  対応手話(通称シムコム)」、の2種類があるということを初めて知った。

  今日では一般に急進的な政治的発言のほうで有名になっているチョムスキーで
  あるが、本来はこの学問上の成果でもっと注目されるべきである。言語を理系
  分野の学問として厳密に考えようという姿勢が日本の学界において薄いことに、
  著者同様危惧を感じる。
posted by 半端者 at 01:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

コホモロジー

書名:コホモロジー
著者:安藤哲哉 編(千葉大学理学部・数学・情報数理学科、大学院自然科学研究科
  所属者8人の共同著)
出版:日本評論社
内容:平成13年10月13日、20日に千葉大学で開催された公開講座「コホモロジー」を
  もとに加筆したもの。20世紀半ばに登場したコホモロジーという新しい計算の道
  具を、「分かリやすく社会人や高校生に」解説しようとするものである。・・・
  とのこと。聴いただけだと無謀の限りという気がするが、厳密な議論をうまく取
  り除いて概念だけとし、実際の計算例を交えて説明する分にはかなりその目的は
  達成される。
感想:コホモロジーとは何か。ただそれだけのことを一般的に説明することすら、相
  当に難しい。それをここまでかみくだいでみせた、著者の力量には感服するしか
  ない。やさしくかみくだいているとはいえ、久しぶりに読んだ本格的な純粋数学
  の本という気がする。

  コホモロジーからの応用として佐藤超関数の話も乗っているところに感動。とこ
  ろで、「derived functor:導来関手」という用語は、虚心に読むとまるで・・・
  謎の中国拳法の名前みたいではないか。

#結局コホモロジーとは何なのか?について半端者が一言で述べておこう。要するに、
 数学で扱うありとあらゆるモノについて、そのものの持つ構造の複雑さを記述する
 ための、一般的な道具である。・・・って、、これで分かる人はいないでしょうね
 〜(-.-)

 実例を挙げ、これと対になるホモロジーというものと合わせてじっくり話すと少し
 は違うと思いますが・・・
posted by 半端者 at 01:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鉄理論=地球と生命の奇跡

書名:鉄理論=地球と生命の奇跡
著者:矢田 浩
出版:講談社現代新書
内容:鉄=元素記号Fe、原子番号26、平均の原子量55.85。この物質を人類が金属
  として利用し始めたのは高々5000年程度前のことに過ぎない。しかし元素とし
  ての鉄は、地球で最もありふれた元素として存在し、40億年前の生命誕生から
  始まってその進化の過程の折々に重要な役割を果たしていることが最近明らか
  になってきた。

  本書では鉄の量子化学的特性から説き起こし、それが「生命エネルギーサイク
  ルの要」としての役割を果たしており他の元素に代えられない重要なものであ
  ること、また人類文明の発展とも密接不可分であることを説明している。また
  その化学的特性は地球温暖化解決の切り札になる可能性も持っており、鉄の海
  洋散布実験の成果を紹介している。

感想:筆者は金属工学が専門の工学博士で、もと八幡製鉄(現・新日鐵)に勤務し
  ていたこともある静岡理工科大学名誉教授。専門上鉄の性質に関する説明は大
  変細かくされており、かつそれを前提とした筆者のいわゆる「鉄理論」、すな
  わち「鉄の還元力を利用することによって大気中の二酸化炭素を吸収すること
  ができる」という仮説は大変説得力がある。

  現実に中規模のフィールド実験は相当程度の肯定的成果を挙げており、もはや
  仮説というより工学的実現性を検討すべき段階らしい。ただ「鉄を海洋散布す
  る」ことの他の影響を慎重に考慮しなければならないこと、また政治的思惑な
  どもあり大規模実施という段階には至っていないのは残念である。

  本書はまた鉄文明と木材伐採についての関係にも言及しており、木材資源の枯
  渇から石炭利用技術への移行がうながされたこと、またその移行が技術統制で
  阻害されたのが中国停滞の原因であると論ずるなど、文明論としても興味深い。
posted by 半端者 at 01:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月20日

複雑ネットワークの科学

書名:複雑ネットワークの科学
著者:増田直紀、今野紀雄
出版:産業図書
内容:今日最もホットな科学上のパラダイムになりつつある、複雑系ネットワークに
  ついて、ここ数年の成果まで幅広く取り扱っている。論文ほどには厳密でなく、
  しかし理論の流れを数式レベルで追える程度には充分詳しく、この魅力的な世界
  を余すところ無く紹介している本格的な解説書。2005年2月25日初版とのことな
  ので、本当に最新の内容である。
感想:複雑系科学の手法は確かに様々な現象の説明に有用であるとは聞いていたが、
  ネットワークにおける適応度モデルで生じる一人勝ち現象と、ボーズ・アイン
  シュタイン凝縮が同じように説明できるというのはびっくり。次数がべき分布
  に従うネットワークが、フラクタルと関係すること、いわゆるハウスドルフ
  次元と関係が深いことも予想していたが、これは実は完全に同じ理論になって
  いるわけではなく、関係が未整理であることも、初めて知った。この分野は、
  基礎レベルであっても未踏の世界が広がっている。桁外れに数多いこの関連
  文献、いくら読んでも飽きることがないばかりかその世界へ足を踏み入れたい
  という欲求は募るばかりだ。
さらには
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クェーサーの謎

書名:クェーサーの謎
著者:谷口義明
出版:ブルーバックス
内容:クェーサーは太陽の1兆倍の明るさをもつ宇宙で一番明るく、そしてもっとも
  遠い天体だ。宇宙誕生後10億年頃に現れ、現在の宇宙ではほとんど観察されな
  い多くの謎に包まれたクェーサーの正体とは?最新の観測データからその実態に
  迫る。
感想:昔は「準星」という日本語名がよくつかわれていたが、最近はクェーサーの
  名前のほうが一般的のようだ。その正体として現在もっとも有力となっている
  のが、銀河系の中心核並みの質量を持つ超大質量ブラックホールだ、という説
  である。そのアイディア自身はかなり昔からあったが、最近の様々な観測デー
  タは、これを裏付ける事実が相当数出ているようだ。
posted by 半端者 at 01:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月14日

数学は科学の女王にして奴隷(T、U)

書名:数学は科学の女王にして奴隷(T、U)
著者:E.T.ベル
出版:ハヤカワ書房
内容:有名な「数学を作った人々」の作者が、今度は数学の各分野ごとにその歴史
  を説き起こした、名著。1950年時点での内容につき、まだ4色問題やフェ
  ルマーの最終定理も未解決な課題となっているものの、これだけ広範囲な数学
  の各分野に分け入って、厳密性をほとんど失うことなく丁寧に解説していると
  ころには感服するしかない。
 「作った人々」のほうは人物の伝記に焦点が置かれているせいか若干事実が歪め
  られている点がある、との批判を聞いたが、この本においてはそれはない。
感想:大変良い本だと思うのだが、文章のそこかしこに欧米文化中心主義というか、
  黄色人種に対する偏見的な表現があるところは気になる。古い本だからしかた
  がないのだが・・・整数論、類体論において、高木貞治の名前がなぜでないの?

  またこれもしかたがないのだが、できれば最新の研究成果との関係を日本語版
  の補遺で補って欲しかった。ワイルスの成果だけでなく、数学基礎論における
  チャイティン氏のオメガ数とか、力学系の話の補足としてカオスの話とか複雑
  ネットワークの話題とかも欲しい。

posted by 半端者 at 02:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

いかにして問題を解くか

書名:いかにして問題を解くか
著者:G・ボリア/垣内賢信・訳
出版:丸善
内容:原書の第1版が出たのが1945年、改訂版でも1973年という極めて古い本。だが、
  数学の問題をいかにして解くかというより、ある問題から説き起こしてどのよう
  に思考の網を広げていくかについて様々な実例を交えて論じている。数学教育を
  行う教師、そして学ぶ側の学生、の双方にとって、数学的思考の基礎を育てるた
  めの格好のテキスト。
感想:数学に限らず、ちょっとした謎々の類についての考察にも役に立つ、いわば問
  題解決のための原則をまとめている裏表紙のヒントリストが秀逸。問題の条件を
  よく理解することとか、より単純なケースから考えてみよ、とか、類似のケース
  を考えよとか、とにかく実際問題を考えるときに無意識に行っている試行錯誤を
  方法論として的確に論じている。

  半世紀近くも前に出版されている本だが、そのエッセンスは全く古びていない。
  名著とはこういうものか。
posted by 半端者 at 02:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月13日

物理学者、ウォール街を往く、他

これはこれから購入の上読む予定の本である。

posted by 半端者 at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ヤフーブログはどうなっているのだ

当ブログの本館にあたるヤフーブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/tsurugiya2000
の、最近の不調は目に余る。以前より深夜の混雑時に更新ができない、というトラブルに悩まされていたが、今や単に参照することすらしばしばできない。この状況では100年たってもベータ版から卒業することなどできまい。

初めてブログを作る楽しみを味あわせてくれたのがヤフーブログである。応援したい気持ちこそあれ、あえて悪意を持って対するつもりなど毛頭ない。その私ですら、この状況には苦言を呈さずにはいられない。

こんな体たらくでは、先がおもいやられるのである。それはさておき、こっそりここで色々個人的な気になるものの宣伝をば。
ひぐらしのなく頃に 第1巻 初回限定版
ひぐらしのなく頃に 第2巻 初回限定版
ひぐらしのなく頃に 第3巻 初回限定版
ひぐらしのなく頃に 第4巻 初回限定版
ひぐらしのなく頃に 第5巻 初回限定版
ひぐらしのなく頃に 第6巻〈初回限定版〉
posted by 半端者 at 23:31| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月09日

「ケプラー予想」書評の続き

感想が長くなりすぎたので、記事を改めておく。

ちなみに、ヘールズの証明は膨大な場合分けと莫大な数の変数を持つ線形計画法問題を解くプロセスを含み、これらは全面的にコンピュータのお世話になっている。そのため実は、最終的な査読は「99%間違いない」として完全確認を断念されてしまった状況なのだそうだ(多分2002年末現在くらい)。

ワイルスによるフェルマーの最終定理の解決を示す論文が、厳重な査読により完全であると保障されているのとは対照的であり、このことをもって著名な数学者イアン・スチュアートは
「ワイルスの論文がトルストイの『戦争と平和』であるとするなら、ヘールズの論文は
電話帳である」
などと批判している。だが、スピーロは4色問題の証明例も引き合いに出しながら、ヘールズの成果を擁護する。ちなみに私も同意見である。そもそもコンピュータを利用したからと言って、紙と鉛筆を使った証明に対する査読より厳重でなければならない理由はない。例えば異なるソフトウェアを用いて独立にコーディングしたプログラムをコンピューター上で走らせて同じ結果が出た場合、通常このプログラムは正当であると判断するのが普通であり、それが証明という結果を出しているのなら、従来の考えに照らしても正当な証明が出たと見て当然ではないか。

実際、ヘールズは2003年1月、コンピュータによりこの論文の精査を行い、全てのプロセスについての論理的正当性をコンピュータを用いて、省略なしに完遂しようという大規模なプロジェクトを提案し、参加者を募っているそうだ。その完遂にかかる時間としてヘールズが見積もっているのは、20年。なんとも壮大な計画であるが、これが完遂すればまさに画期的なことである。
posted by 半端者 at 02:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ケプラー予想〜400年の難問が解けるまで

書名:ケプラー予想〜400年の難問が解けるまで
著者:ジョージ・G・スピーロ/青木薫・訳
出版:新潮社
内容:1590年代、英国貴族にして著名な探険家であるサー・ウォルターローリーの
  側近だったトマス・ハリオットは、ローリー卿の疑問からひとつの数学的問題
  に行き当たった。同じサイズの球体を充分大きな箱にできるだけたくさん詰め
  るにはどうしたらよいか?ヨハネス・ケプラーは、その問いに対してひとつの
  有力な候補(六方細密充填)を与えたが、それが本当に最適な方法であること
  が証明されるまでには、実に400年以上の歳月が必要だった。

  本書は、「ケプラー予想」と呼ばれるこの問題について、その発生から様々な
  数学者の苦闘、そしてついに1998年、若き天才数学者トマス・ヘールズが最終
  証明を提示するまでの壮大な知のドラマを描いている。
感想:六方細密充填が最適であるかどうか、という超難問については数学を学んだ
  もののはしくれとして多少は知っていたつもりだったが、これほどまでに
  「ある意味初等的な」議論がその解決の道筋の主流を占めているということは、
  実に新鮮な驚きである。

  特に2次元で一般格子点上に円の中心がある場合に限ると、その議論の単純さ
  は驚くほどだ。空間分割の考え方にしても、実に丁寧は説明と豊富な図面によ
  り、目のくらむような3次元体験が味わえる。科学解説書として申し分なく親
  切で、分かりやすい本である。もちろん詳細について省略している点も多い。
  とりわけ、球面配置が不規則な場合で、考慮すべき空間を無限の広さでなく
  有限の範囲で、有限個のボロノイ・セル(球面ひとつが占める仮想上の国境線
  みたいなもの)を考えれば充分として、有限の世界に話を持ち込むところ。
  実はここが眼目であって、これにより最適化の議論を本質的にコンピュータに
  よるしらみつぶし線形計画法の世界に持ち込むことができる、というのだが、
  そこが一読しただけではついていけない面があった。いい加減に飛ばした
  補遺50ページ余りをもう一度読んでみようか・・・
posted by 半端者 at 02:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

DNA〜二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで

書名:DNA〜二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで・・(上/下)
著者:ジェームズ・D・ワトソン、アンドリュー・ベリー/青木薫訳
出版:ブルーバックス
内容:いわずと知れたノーベル賞受賞者、二重螺旋のワトソン博士をメインの著者
  とする、DNA構造の発見から現代に至る生命科学発展のドラマ。DNAの構造
  発見50周年を記念して、2003年に企画された本。伝説的な著作「二重螺旋」も
  素晴らしいが、その後の膨大な科学的発見と、それがもたらした社会の変化を
  丁寧に紹介した本書は、その後に続く傑作といえるだろう。
感想:ワトソンは、二重螺旋構造を発見して以来一貫して遺伝子研究の最前線にい
  たため、単に技術的最先端事項というだけでなく、バイオビジネスや倫理に関
  する論争など、様々な局面に直接関わってきた。

  彼の立場は極めて明確で、科学的事実に善も悪もなく、ただそれをどうやって
  使えば人間を幸福にできるかが問題なのだと整理されている。宗教的な頑迷さ
  も、技術に対する過度の信頼も、彼には無縁である。彼は言う。「ヒトゲノム
  計画のもたらした膨大な知識に倫理的な問題があるとするならば、それは人類
  の苦しみを減らすためにその知識を行使するのが遅れていることではないだろ
  うか。」

  この点には全く同感である。私から付言するなら、知識を人類の苦しみを減ら
  すために必要なのは、広い意味での知恵である。そこに宗教の入る余地が全く
  ないとは言えない。恐らくは、神道的世界観はとても大きな役割を果たしえる
  だろう。
posted by 半端者 at 01:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

新装版〜数学・まだこんなことがわからない

書名:新装版〜数学・まだこんなことがわからない〜難問から見た現代数学入門
著者:吉永良正
出版:ブルーバックス
内容:古代ギリシャ時代からの問題である「完全数」「素数」の探求問題から、最新
  の数学における未解決問題にいたるまで、その背景を「中学生にも分かるように」
  説く1990年10月に出た名著、その新装版。当時はその直前に伝えられた森重文氏
  のフィールズ賞受賞にちなんで「極小モデル」の話を無理して盛り込んだのが
  最新成果だったが、今回版ではこの後の大事件「フェルマーの大定理解決」への
  経緯、2000年にちなんで提示されたミレニアム問題などの話が加筆されている。
感想:昔初版を読んだような気もするが、新装版となってもその読みやすさ、面白
  さは変わりない。さすが一般向け科学解説新書の老舗、である。高校生くらいに
  初めて読ませるには依然としてお勧めの一冊だろう。ただ、扱うテーマの範囲は
  ぐっと狭い。最近読んだものの中で総合評価ベストを挙げるなら、やはり次に紹
  介する本「物理と数学の不思議な関係」を推したい。
posted by 半端者 at 01:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

物理と数学の不思議な関係〜遠くて近い2つの科学

書名:物理と数学の不思議な関係〜遠くて近い2つの科学
著者:マルコム・E・ラインズ/青木薫・訳
出版:ハヤカワ・ノンフィクション文庫
内容:あくまで自然現象が研究対象の物理と中小世界に遊ぶ数学とは、似て非なる
  学問。しかし、斬新な物理理論構築の決め手になるのは往々にして、物理学の
  ためどころか現実に役立てることさえ念頭に無く、100年も前に作られていた
  数学の成果だったりする。なぜそうやって、いつもうまくいくのか?思いがけ
  ない結びつきをはらんだ豊富な実例を眺めるうちに数理的な考え方の極意が見
  えてくる稀有な一冊。解説・米沢富美子。
感想:文庫版の科学解説書なので読みやすいかと思えばとんでもない難物である。
  全12章に空間最密充填問題と結晶構造・ガラス構造の関連の話から始まって、
  一般相対性理論と非ユークリッド幾何学・弦の振動と微分方程式の関係から
  説き起こした量子力学の話・自然数から負数・有理数・実数・複素数さらには
  四元数という数の拡張と物理の関係、非線形方程式とカオス、コイン投げの問
  題から統計力学の話、トポロジーと高分子化学などなど、ものすごい広範囲の
  世界における数理的技術の活躍の有様が、相当程度の数式も交えて詳細に語ら
  れている。帯の記載どおり、まさに稀有な一冊といえる。

#ちなみに空間充填問題、いわゆるケプラー予想解決に関する2002年現在の状況も、
本書では訳者の補足として一言書かれている。

posted by 半端者 at 01:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

温度から見た宇宙・物質・生命

書名:温度から見た宇宙・物質・生命〜ビッグバンから絶対零度の世界まで
著者:ジノ・セグレ/桜井邦朋・訳
出版:ブルーバックス
内容:数千年も前から使われてきた「長さ」や「時間」に対して、「温度」はつい
  300年ほど前にようやく測定できるようになった。膨張宇宙論が証明されたの
  も、量子力学が確立したのも、温度の測定によるところが大きい。この現代科
  学に欠かすことができない尺度である「温度」を道案内役にして、物理学のみ
  ならず、気象学、生物学にいたるまで様々なふしぎな現象に迫る。
感想:著者は、エミリオ・セグレ(1959年、反陽子の発見などでオーウェン・チェ
  ンバレンと共にノーベル物理学賞受賞)の甥にあたる、本人も高エネルギー物
  理学の世界的な権威。この種の一般向け科学書を書くのは初めてとのことであ
  るが、「温度」をキーワードに広範な領域にまたがる知的な物語を、見事に描
  き出していると思う。

   本筋とは関係ないが、米国では一般的な華氏という温度単位の根拠が、「水
  と氷と食塩の共存状態温度をゼロ度、人間の体温を100度」として定めたの
  が起源だとこの本で初めて知った。摂氏に比べて定義としての汎用性に極めて
  劣る・・・「さすが、アメリカンスタンダード」と感じるのは、多分偏見では
  ないと思うがどうか。
posted by 半端者 at 01:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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