2006年08月29日

アメリカ第二次南北戦争

書名:アメリカ第二次南北戦争
著者:佐藤賢一
出版:光文社
内容:2013年4月9日。アメリカ南西部の16州は「アメリカ連合国」とし
  て「アメリカ合衆国」からの独立を宣言した。約150年ぶりに起きた
  アメリカ合衆国の内乱は、2年後の両陣営による暫定的休戦協定を
  もって、つかのまの平穏を得た。しかし、人種差別・貧富の差・宗
  教対立といった大きな矛盾から生じたこの国の対立は、2016年現在
  未だ解決には程遠い。同年7月4日、ジャーナリスト森山悟はロスア
  ンジェルス国際空港に降り立った。自ら生み出した社会の矛盾に苦
  悶するアメリカの姿を見極め、日本の、そして世界の取るべき道を
  探るために。・・・

  1999年に直木賞を受賞した著者が鋭い批評眼をもって描く、起こり
  えるかもしれない明日の世界。

感想:「やや乱暴に譬えてしまえば、アメリカは成功したオウム真理教
  なのです。アメリカ合衆国というのは、恐ろしく巨大な『カミクイ
  シキ』なんですよ」・・・このショッキングなせりふは、本書の帯
  に引用された、本作中のある登場人物が吐く言葉である。これこそ、
  アメリカという国の病的な面を見事に言い表した、至言と言える。

  旧ヨーロッパ世界で少数派として疎まれた人々がその反発から団結
  し、自分たちこそ「選ばれた民である」と思い込んで自分たちの基
  準に合わせないもの即ち「敵である」とする幼稚な選民思想にどっ
  ぷりひたって作り上げた新興宗教団体。それこそがアメリカである
  と。本書では、そうした視点から「合衆国」「連合国」双方から徹
  底的にステロタイプなWASPをこれでもかというほど登場させる。
  いくらなんでもここまで間抜けなわけないだろ、というくらいに。

  そして本書におけるアメリカの行く末は、極めて暗い。停戦は程な
  く破棄され、国際社会から見捨てられ、いつ果てるとも知れない内
  戦の続く焦土と化していく。全てアメリカ人が自ら選んだ道である。
  森山悟は本書の終盤で、その収拾には一時的な国連による委任統治
  を経た小国への分割と、各国の主権保証しかないと、結論している。

  もちろんこれはあくまで、アメリカの暗い面のみを誇張したフィク
  ションに過ぎない。第一、国際情勢が非現実的。こんな異常事態に
  日本政府、とりわけ外務省がまともな外交対応できるとは信じられ
  ないし、中国が黙って紳士的態度を貫くはずもない。まず間違いな
  く、日本は中国とロシアの食い物にされてぼろぼろになっているこ
  とだろう。国連で事態収拾の中核を担う??無理無理\(ToT)/

 (私の書評読者に政府関係者が万一おられ、気分を害されたのなら深
  くお詫びする。所詮、門外漢のたわごとである。どうか、『実績を
  持って』私のこの偏見を打ち破ってほしい。)

  そういうわけで少々暴論に過ぎる面はあるが、銃やドラッグ、人種
  差別、はなはだしい貧富の差というかの国の問題点を痛烈に告発す
  る評論としても、子気味良いアクションエンタメ(もちろんアメリ
  カンサイズ美人つき(爆))としても面白い。

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2006年08月27日

量子進化〜脳と進化の謎

書名:量子進化〜脳と進化の謎を量子力学が解く!
著者:ジョンジョー・マクファデン/斉藤成也監訳、
  十河和代・十河誠治訳
出版:共立出版
内容:細菌で見つかった適応変異や多剤耐性という現象は、自分に有利
  な変異を「選択」しているように見える。つまり、後天的経験が進
  化の方向性まで決定しているかのように見えるのだが、一方で獲得
  形質が遺伝するというラマルク流進化論は否定され、現在修正され
  たダーウィン進化論が定説とされている。この問題点については現
  代も充分な説明がないまま論争額続いている。

  本書では、細胞の世界に量子力学の原理をあてはめることによりい
  かにしてこの問題によい説明ができるかを説く。さらに、その考え
  方は生命誕生の謎・進化の原理・さらには意識なるものの起源にま
  で適用できるのではないか、と大胆な仮説を展開している。

感想:ロジャー・ペンローズは、量子重力場理論とかツイスター理論とか
  言われるものを確立した大天才物理学者なのだが、また一方で人間
  の意識というものは、神経細胞内にある「マイクロチューブル」な
  る構造の中で生じる「量子力学的な状態の重ね合わせ」と、その収
  縮によって生じる量子的な現象である、という限りなく「とんでも」
  的な仮説を唱えている人でもある。本書のタイトルを読むと、まさ
  にその直系の香りがただよう「と」系本としか思えない。

  しかし読み進めると、ペンローズよりはずっと慎重に仮説と証拠の
  提示の繰り返しを行い、このとほうもない仮説へ向けて丁寧に読者
  を案内してくれる。本書の序盤1章〜6章は生命をつかさどる様々
  な物質サイクル・遺伝子のしくみについて概観し、分子レベルでの
  生命現象を見る上で量子力学が必須であることを諭す。

  続いて7章〜9章において、古典物理的世界観を覆す量子力学の奇怪
  な特質につき、それ専門の書に負けないほど丁寧かつ詳細に解説を
  行っている。(ここだけでも一読の価値がある。)

  それを踏まえていよいよ本書の核心へ。10章では生命誕生における
  自己複製物質の発生が単純にランダムな反応の繰り返しでは確率的
  に不可能であるという事実を踏まえ、驚くべき仮説を提示する。

  即ち、非生命分子の、量子レベルでの重ね合わせが環境からの観測
  (量子測定)により選択的に壊され、自己複製する物質へと選択的
  に変化していった(量子力学の多世界解釈といってもいい)という
  のだ。そうしてできた物質のサイクルが自己組織化した結果、生命
  の誕生につながったと。

  11章ではさらに、現在の生物細胞内においても量子測定による選択
  的変化が生じており、それが適応変異の原動力だと説く。12章では
  これを用いて進化のしくみに関する数々の疑問をも解く。

  13章ではついには、生命の本質が量子的重ね合わせとその収縮にあ
  り、意識の原理もまたこれである、というペンローズの「と」の世
  界にたどりつく。ペンローズ自身の主張する「意識のありかはニュ
  ーロンの中にある微小管である」というのには「微小管内で収束し
  ない量子的重ね合わせ状態が維持されるとは考えにくい」と退けて
  はいるが、代わりに筆者は電磁気的現象としての脳波(意識的電磁
  場)がこれにあたるという仮説に基づき論じている。

  正直、これもまたかなり論拠を整えるのに骨が折れそうな、「と」
  に近い仮説である。しかし本書はやはり、凡百の疑似科学本などと
  は全く違う、興味深い仮説に満ちた本だと思う。

  「意識する」とか「環境が選択する」といった表現の使い方に、筆
  者自身この説のあやうさをよく理解しながら慎重に論じているのが
  よくわかる。大変エキサイティングな一冊であった。
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詭弁論理学

書名:詭弁論理学
著者:野崎昭弘
出版:中公新書
内容:人はしばしば強弁・詭弁の類に悩まされてきた。だが知的な観察
  によってその正体を見極めることができれば、言い負かし術には強
  くならなくとも、詭弁術に立ち向かうための頭の訓練になる。そし
  て、議論を楽しむ「ゆとり」も生まれてくる。

  本書は、ルイスキャロルのパズルや死刑囚のパラドックスなど論理
  パズルの名品、ギリシャの哲人による思索の粋、はては寅さんの口
  上までも題材に、強弁術・詭弁術の様々な手法と論理の遊びをじっ
  くり味わうことをテーマとした、「愉快な論理学の本」の古典。
感想:本書は1976年に初版が出て以来、今年2月にとうとう52版
  を数えた超ロングセラーである。このことは詭弁・強弁に悩む人が
  いかに多いのかを示している。今まで私が読んでいなかったことも
  不思議と言えば不思議だが・・・

  まあともかく、本書では有名な問題「鏡に写る像はなぜ左右が逆に
  なるのに上下が逆にならないのか」とか、「予測できない日に死刑
  を執行することができないパラドックス」とかについて、大変分か
  りやすく説明がされている。

  古典的3段論法の何たるかから分かりやすく説き起こすところから
  始めており、論理学のイロハを知る上で今なお格好の書であると言
  えるだろう。個人的には特に、死刑囚のパラドックスが結局は命令
  そのものが自己言及パラドックスを含んでいることを説明している
  ところが大変よく理解できた。
#死刑囚のパラドックスとは?
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ダイヤモンド・エイジ

書名:ダイヤモンド・エイジ(上・下)
著者:ニール・スティーブンスン/日暮雅通・訳
出版:ハヤカワ文庫
内容:近未来、ナノテクとネットワーク技術は世界の様相を一変させて
  いた。地域国家は消滅し、人種・宗教・主義・趣味を共有するもの
  が構成する多種多様な<国家都市>に細分化されていた。上海に住
  む「ネオ・ヴィクトリアン」の「貴族」であるフィンクル・マグロ
  ウ卿は、旧態依然の教育に疑問を抱き、一人の技術者ハックワース
  にあるソフトの開発を依頼する。

  愛娘のために、ナノテクの粋を駆使して開発された、画期的な教育
  用インタラクティブソフト「初等読本」がそれである。ハックワー
  スは誘惑にかられ、自らの娘のためにも一部、そのコピーを作って
  しまうのだが、それはひょんなことから貧困にあえぐ薄幸の少女
  ネルのもとに渡る。やがて、ネルは現実と仮想世界にまたがる壮大
  な冒険の旅にでることになるのだが・・・・
感想:以前読んだ文庫4分冊の大作「クリプトノミコン」をものした21
  世紀SFの旗手、ニールスティーブンスンの1996年度ヒューゴー賞
  ・ローカス賞受賞作。ナノテクのイメージを駆使した膨大なアイデ
  アと、数多くの個性的な登場人物・組織の思惑を絡ませた巧みなス
  トーリー展開には、ただただ目を奪われるばかりだ。

  非力でどん底の貧困にあえぐ少女ネルの前で語られる、「若き淑女
  のための絵入り初等読本」の主人公「プリンセス・ネル」(インタ
  ラクティブなので、読者のネルの名前が反映されるのだ!)の数奇
  な冒険と成長が、いつしかネル自身の成長とも重なっていく劇中劇
  の面白さも群を抜いている。

  自立して強く生きる新世代の童話ヒロイン「アリーテ姫」の活躍を
  描いた「アリーテ姫の冒険」を思いだしてしまった。成長後のネル
  の活躍がいささかスーパー過ぎるきらいはあるが、大いに楽しめた。

  もちろん、作者お得意の暗号がらみのアイデアとかも満載。ブレイ
  クした最初の作品「スノー・クラッシュ」のほうも読まねば・・・
posted by 半端者 at 00:32| Comment(0) | TrackBack(1) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月10日

若き日の思い出〜数学者への道

以下の書評を書いたのは昨年9月である。残念ながら同氏は2006年6月、逝去されたとのこと。ここに謹んでご冥福をお祈りする次第である。

書名:若き日の思い出〜数学者への道
著者:彌永昌吉
出版:岩波書店
内容:彌永昌吉。少なくとも日本において、この人の名前を知らない数学
  関係者はもぐりである。1906年東京本郷に生まれ東京大学数学科を卒
  業。類体論と呼ばれる数学の一分野を築き上げた日本最初の世界的数
  学者、高木貞治の門弟として日本数学界の基礎を築き上げた、当年数
  えで百歳を迎えながら今なお健在の大数学者である。

  本書は、氏が百歳を期に執筆された半生記であり、氏のざっくばらん
  な人となりが伺えるだけでなく、まさに日本数学界の発展史が一望
  できる、貴重な一冊。

感想:今年(2005年)は彌永先生の白寿(99歳、数えで100歳)を祝う年
  であり、本書はその記念として出版された。基本的に日本経済新聞
  の裏面に掲載されている「私の履歴書」と同様なものだと思えばよ
  い。当時の彌永家の間取りであるとか、ドイツ留学時の話など、明治
  末から大正、昭和初期にかけて日本が比較的穏やかであった時期の世
  相が読み取れる。歴史的な文献としても貴重だ。

  また巻末には氏の専門である類体論の解説などもあり、さほど厚い本
  ではないものの歯ごたえのある一冊である。
posted by 半端者 at 02:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

トリックスターズD

書名:トリックスターズD
著者:久住四季
出版:電撃文庫
内容:日本で唯一の魔学部を持つ大学・城翠大学に、今年も学園祭の季節
  がやってきた。学園祭を様々に楽しもうとする、客員教授を務める魔
  術師、佐杏冴奈と、そのゼミに所属する天之原周(あまね)ら。

  しかし、ただで済むはずもなく早速起きる事件。得体の知れない結界
  に建物ごとすっぽり覆われてしまった学園棟に閉じ込められた周と親
  友の凛々子は、共に閉じ込められたミステリ研究会の面々とともに、
  現実と小説が交錯する奇妙な空間の探索と脱出に挑むのだが?・・・

  半年足らずの間に2つの怪異な事件に巻き込まれた周たちの物語であ
  った前2作を受けて作者がおくる、推理小説をかたどった魔術師の
  物語、シリーズ第三作。

感想:魔術が科学と同列のものとして、極めて現実的で論理的な体系・現
  代魔術として確立している世界を舞台にした、作者の手を変え品を変
  えたアイデアには毎度感心させられる。ネタ切れの日も近いかと思っ
  ていたが、どうしてどうしてたいしたものである。小説内小説を用い
  たトリックそのものはいまさらという気もしないではないが、各キャ
  ラクターの特徴と言動を生かして軽妙に読ませる語り口は、緻密に設
  定された世界観とあいまってとても心地よい。

  周の魔術師としての才能について本格的開花のきざしも出てきたよう
  で、そろそろ第一作以来の敵役との再対決が楽しみである。
以下ちょっとだけネタバレ
posted by 半端者 at 01:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

日本沈没 第二部

書名:日本沈没 第2部
著者:小松左京+谷甲州
出版:小学館
内容:ユーラシア大陸の極東に存在し、特異な文化を2000年に渡り育んで
  きた、島国「日本」。その国土が地球規模の地殻変動の影響でわずか
  1年足らずの間に日本海溝の底へ引きこまれ、海中に没してしまって
  から、25年の歳月が過ぎた。国土を失い流浪の民となった日本人た
  ちは、世界各地に散り散りとなり、様々な軋轢に悩まされつつも、そ
  の高い技術力・経済力と勤労をいとわない気質を失うことなく、それ
  ぞれのやりかたで地域の開発に取り組んでいた。

  しかし、日本人は、いや世界の人々は、25年前の「異変」がさらな
  る大きな災厄の始まりに過ぎなかったことにまだ気づいていない。

  高度成長期の日本人の心を震撼せしめた小松左京伝説の傑作
  「日本沈没」、その待望の第2部が、33年の歳月を経て今、登場。

感想:1973年、当時最新の地球物理学的知見であったプレートテクト
  ニクス理論から大胆に着想し、国土の沈没という未曾有の災厄と、
  それに立ち向かう日本人たちの姿を描いた傑作「日本沈没」は、当時
  映画にもなり大変な話題作となった。いわゆるパニック小説の走りと
  いう表面的な見方もされたが、この作品は単なる「異変に伴う社会シ
  ミュレーション」というだけでなかった。

  「日本人とは何か」、その文明観のありかたを問いつつ、ひとつの民
  族の興亡を描く大叙事詩になるはずだった。実際小松左京氏の当初か
  らの構想がそのようなスケールのものだったことは、もともとの作品
  タイトルが「日本漂流」だったことからも明らかである。しかしあま
  りのスケールに、とりあえず日本人が国土を失ったところまでを第一
  部として完結して以来、長きにわたってその執筆は頓挫したまま
  だった。

  小松左京もはや70歳を超え、単独で長編小説を書く体力もさすがに
  ない。しかし彼の後を継ぐSF作家たちなら、その後を継ぐことがで
  きる。そこで2003年11月、プロジェクトチームが立ち上がる。それか
  ら2年半の歳月を費やし、小松左京の提示した構想を森下一仁氏他気
  鋭の若手SF作家たちが練り上げ、谷甲州がとりまとめてついに完成
  したのが、本書である。

  33年の歳月を経て急速に進歩した地球物理学の成果も踏まえ、大規模
  な異変後の地球レベルの環境分析も踏まえた分析は緻密であり、目を
  離せない。ところで、ネタバレになるので詳しく書けないが、この
  作品、エピローグに希望はあるものの決して明るい結末ではない。
  どこか物悲しい、寂寥観も感じさせる作品となっている。文明論的に
  言えば、「この展開ならこうなるだろう」と想像はしていたのだ
  が・・・。だが、心に残る作品であることは間違いない。

  余談だが、私はアンハッピーエンド小説はあまり好きではない。特に
  登場人物がことごとく後ろ向きで、不幸に対してただただ無力さをさ
  らけ出すだけの作品(具体例を挙げるのは、差し控えよう)には、
  例え世間一般に名作と言われるものであっても虫唾が走る。本作品
  は、決してそのようなものではなかったことは、何よりの喜びだ。
posted by 半端者 at 01:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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