2006年05月24日

数量化革命

書名:数量化革命〜ヨーロッパ覇権をもたらした世界観の誕生
著者:アルフレッド・W・クロスビー/小沢千重子・訳
出版:紀伊国屋書店
内容:ヨーロッパに端を発した所謂帝国主義は、自由民主主義の衣をまと
  いつつも、人類の歴史の中で最も成功を納めてきた覇権的思想である
  ことは間違いない。それが全地球に広がる広大な勢力圏を持つように
  なった、その力の源泉はどこにあるのか。

  著者クロスビーはこの問題をライフワークとして研究してきたが、本
  書ではその原因のひとつとして「事物を数量化して考える」という思
  考の枠組みがあると説き、この考えをパントメトリー(pantometry)
  汎測量術と呼ぶ。

  そして、「時間の計測」が始められたそもそものきっかけから歴史を
  説き起こし、暦や測量技術の発達から均質な時間・均質な空間という
  概念に到達するまでの歴史を追う。合わせてそこから発展した数学を
  始めとする様々な知見が、様々な科学・芸術・音楽の発展をうながす
  ありさま、そして現代文明の基礎が生み出される様子をダイナミック
  に語る。

感想:著者は、計測するということの発展を、技術そのものの発展史と言
  う視点ではなく、技術が人間の思想にどのような影響を与えつつ変化
  してきたか、という観点から「汎測量術」なる言葉を使っている。そ
  してその発展以前の定性的・思弁的な世界観を「敬うべき世界」、数
  量化が思想と密接不可分に結びつき、中世ごろから急速に育ってきた
  世界観を「新しき世界像」と呼び、その移り変わりの意義について詳
  しく論じている。

  本書を読むと、今日の我々が議論するまでもなく自明に感じている
  「均質な時空間」「測定によって結び付けられる現実と数量」という
  考えの枠組みが成立するまでに、いかに多くの人たちの努力があった
  かがよくわかる。また、数量化と計算の技術が発達したきっかけの重
  要なひとつが商取引と貨幣経済の発達であることも、様々な面から詳
  しく語られている。貨幣経済の数量化技術の粋といえる、「簿記」の
  発生について一章を割いて説明し、それが文明にもたらした効果がい
  かに大きかったかを論じているのも、印象深い。

  しかし、もちろん内容を無批判に読むべきではない。実際、これは数
  量化ということにより捨象された見方もあることを意味する。ここで
  は「敬うべき世界観」なる言い方をしているなかに、本来失うべきで
  なかった多面的な見方が含まれているのではないか。

  今日ますます顕在化しつつあるアメリカ一極主義に対するアンチテー
  ゼを、我々は忘れてはならない。

  それから、もうひとつ。数量的な扱いの基礎となる数学的概念の大半
  は、決して西洋文明が源泉となるものではない。ゼロの概念を正しく
  理解し発明したのはインド人であるし、これを生かして記数法のデフ
  ァクトスタンダードを確立したのはアラビア人である。

  また詳細は別の本の書評に譲るが、ギリシャ哲学の専売特許のように
  言われている論理的思考と証明という概念の大半は、紀元前1500年ご
  ろのインドの文献にも見ることができるという。
(8/24訂正:正しくは、紀元後5世紀ごろのインドの数学者、Aryabhataによる文献のこと。)

  証明概念うんぬんの話は、従来の常識からかなりかけはなれているこ
  ともあり、ちゃんと裏を取る必要があるかもしれないが、とにかく一
  方の見解に偏らぬよう常に配慮すべきだろう。
posted by 半端者 at 01:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/18287946

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。