2006年05月24日

失われた発見

書名:失われた発見〜バビロンからマヤ文明にいたる近代科学の源泉
著者:ディック・テレシ/林大・訳
出版:大月書店
内容:ヨーロッパに端を発した所謂帝国主義に力を与えた源泉のひとつ
  に、西洋科学の膨大な成果があることは異論の余地はない。しかし
  ガリレオ・ニュートンらに端を発する物理学・数学・化学など数量
  化・定量化・精密な分類と体系を持つ西洋科学・西洋技術に匹敵す
  るものは、果たして本当に西洋文明圏のみで生まれたものなのだろ
  うか。

  もう少し限定して、ヨーロッパ、ギリシャ、コロンブス以降の北ア
  メリカの非先住民族文化(これらを総称して「西洋文化」と呼ぶ)
  以外の非西洋文化には、これに匹敵する科学と呼べるものはないの
  だろうか。従来、そのようなものの存在は信じられておらず、また
  筆者自身もむしろ否定的証拠を求めて調査を行った。にも関わらず、
  いわゆる非西洋文化圏において、古代ギリシャに匹敵する、それど
  ころかしばしばそれをしのぐ、古代と中世の非西洋科学の例を次々
  と見つけるに至った。

  本書はエジプト・メソポタミア・インド・中国・メソアメリカといっ
  た地域の文明における数学・物理・天文学・地質学といった様々な
  分野における成果を紹介し、人類文明史が想像をはるかに超えて多
  様であることをダイナミックに語る。

感想:例えば数学の歴史においてその源流をたどるとき、通常我々はギ
  リシャの賢人たちを思い浮かべることが多い。それ以外ではインド
  においてゼロの概念が生まれたことをわずかに評価する声があるく
  らいで、古代中国・インド・またイスラムにおける数学の歴史につ
  き、充分な評価が与えられているとは言いがたい。

  本書では、例えばピタゴラス数についてバビロニア人は相当程度理
  論的に考察していた可能性を指摘する。また無理数の概念につきイ
  ンド圏の数学者が既に到達していたと見て良いとの証拠も挙げてい
  る。(明らかに、ある長さの比率が整数の比に表せないことをはっ
  きり説明しているということだ。)その他中国の算木を用いた連立
  一次方程式、物理学の、例えば光学に関する古代中国やイスラム圏
  での理論的考察、メソアメリカにおける薬物に関する高度な知見、
  イスラム圏における無機化学上の様々な成果など、その内容の豊富
  さは驚くほどだ。

(8/24補足:古代から中世にかけてのインドにおける数学に関する記載の大方は、イギリス・マンチェスター大学の数学教授ジョージ・Gh・ジョゼフによるところが大きい。彼によれば、1881年インド北西部で発見された文献「バクシャーリー写本」は少なくとも5世紀頃にまで遡る古代インドの数学的成果を知ることのできる重要な文献である。当初不完全な翻訳によりその価値は不当に貶められていたが、再評価されるべきであると。同様な主張を日本の研究家、林隆夫もしているとのこと。また、15世紀のインドの数学者Nilakanthaの著作には、次のようなびっくりするような記載がある。「なぜ(円周の)近似値のみがここで示されるのか、説明しよう。それは、本当の値が得られないからだ。ある測定単位で余りを出さずに直径を測れば、同じ単位で円周を測ると、余りが出てしまう。同様に、余りを出さずに円周を測れる単位で直径を測ると余りが出てしまう。したがって、同じ単位で、余りを出さずに両方を測ることはできない。いくらがんばっても、余りを小さくすることができるだけで、’余りのない’状態を実現することはできない。これが問題なのだ。」孫引きの引用なわけだが、もしこの通りの記載であるとすれば、少なくとも従来の非西洋世界における数学の評価はかなり不当に低かった、と考えざるを得ない。もちろん、検証は必要だが・・・)

  本書はこういった個別のトピックを通して、いわゆる非西洋文化圏
  においても、その 依って立つ環境に応じた文化的特徴の相違はあ
  るものの、間違いなく科学的思考というべき論理的な考察の跡とそ
  の成果が立派に存在することを教えてくれる。科学の歴史は、旧来
  のヨーロッパ中心主義的な世界観などより、実ははるかに多様で、
  エキサイティングなのだ。本書と、前に紹介した「数量化革命」を
  読んでいるうちに、以前読んだ印象的な文明史の本をまた読み返し
  たくなった。

  少し間が空くが、それも後ほど書評を書いておきたい。タイトル
  は、「銃・病原菌・鉄」である。
posted by 半端者 at 01:42| Comment(0) | TrackBack(1) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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