2006年08月27日

量子進化〜脳と進化の謎

書名:量子進化〜脳と進化の謎を量子力学が解く!
著者:ジョンジョー・マクファデン/斉藤成也監訳、
  十河和代・十河誠治訳
出版:共立出版
内容:細菌で見つかった適応変異や多剤耐性という現象は、自分に有利
  な変異を「選択」しているように見える。つまり、後天的経験が進
  化の方向性まで決定しているかのように見えるのだが、一方で獲得
  形質が遺伝するというラマルク流進化論は否定され、現在修正され
  たダーウィン進化論が定説とされている。この問題点については現
  代も充分な説明がないまま論争額続いている。

  本書では、細胞の世界に量子力学の原理をあてはめることによりい
  かにしてこの問題によい説明ができるかを説く。さらに、その考え
  方は生命誕生の謎・進化の原理・さらには意識なるものの起源にま
  で適用できるのではないか、と大胆な仮説を展開している。

感想:ロジャー・ペンローズは、量子重力場理論とかツイスター理論とか
  言われるものを確立した大天才物理学者なのだが、また一方で人間
  の意識というものは、神経細胞内にある「マイクロチューブル」な
  る構造の中で生じる「量子力学的な状態の重ね合わせ」と、その収
  縮によって生じる量子的な現象である、という限りなく「とんでも」
  的な仮説を唱えている人でもある。本書のタイトルを読むと、まさ
  にその直系の香りがただよう「と」系本としか思えない。

  しかし読み進めると、ペンローズよりはずっと慎重に仮説と証拠の
  提示の繰り返しを行い、このとほうもない仮説へ向けて丁寧に読者
  を案内してくれる。本書の序盤1章〜6章は生命をつかさどる様々
  な物質サイクル・遺伝子のしくみについて概観し、分子レベルでの
  生命現象を見る上で量子力学が必須であることを諭す。

  続いて7章〜9章において、古典物理的世界観を覆す量子力学の奇怪
  な特質につき、それ専門の書に負けないほど丁寧かつ詳細に解説を
  行っている。(ここだけでも一読の価値がある。)

  それを踏まえていよいよ本書の核心へ。10章では生命誕生における
  自己複製物質の発生が単純にランダムな反応の繰り返しでは確率的
  に不可能であるという事実を踏まえ、驚くべき仮説を提示する。

  即ち、非生命分子の、量子レベルでの重ね合わせが環境からの観測
  (量子測定)により選択的に壊され、自己複製する物質へと選択的
  に変化していった(量子力学の多世界解釈といってもいい)という
  のだ。そうしてできた物質のサイクルが自己組織化した結果、生命
  の誕生につながったと。

  11章ではさらに、現在の生物細胞内においても量子測定による選択
  的変化が生じており、それが適応変異の原動力だと説く。12章では
  これを用いて進化のしくみに関する数々の疑問をも解く。

  13章ではついには、生命の本質が量子的重ね合わせとその収縮にあ
  り、意識の原理もまたこれである、というペンローズの「と」の世
  界にたどりつく。ペンローズ自身の主張する「意識のありかはニュ
  ーロンの中にある微小管である」というのには「微小管内で収束し
  ない量子的重ね合わせ状態が維持されるとは考えにくい」と退けて
  はいるが、代わりに筆者は電磁気的現象としての脳波(意識的電磁
  場)がこれにあたるという仮説に基づき論じている。

  正直、これもまたかなり論拠を整えるのに骨が折れそうな、「と」
  に近い仮説である。しかし本書はやはり、凡百の疑似科学本などと
  は全く違う、興味深い仮説に満ちた本だと思う。

  「意識する」とか「環境が選択する」といった表現の使い方に、筆
  者自身この説のあやうさをよく理解しながら慎重に論じているのが
  よくわかる。大変エキサイティングな一冊であった。
posted by 半端者 at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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