2006年05月06日

ヴィンランド・サガ

書名:ヴィンランド・サガ(既刊2巻)
著者:幸村誠
出版:講談社
内容:救世主がガラリアの地に現れてから最初の千年紀を迎えたころ、
  11世紀初頭。勇猛で名をはせるヴァイキングたちは、フィンラン
  ドからイングランドへとその勢力を伸ばしてきた。強いもののみ
  が全てを制する、戦士たちの世界。戦乱の時代に生まれた一人の
  少年は、父の敵を討つことを心に決め、戦士としての過酷な人生
  を歩み始めた。

  プラネテスでその名をはせたストーリーテラー・幸村誠がヴァイ
  キング遠征の歴史を、ひとりの少年の成長を軸に緻密に考証して
  描く、壮大なスケールの叙事詩。

感想:最近では、ヴァイキングがコロンブスに先立ちヨーロッパ文明
  圏からの先鋒として北米大陸にたどりついていたことが明らかに
  なっている。ヴィンランド、というのはその北米大陸のことを指
  す。結局ヴァイキングたちはアメリカ先住民との交流に失敗し撤
  退を余儀なくされたのだが、彼らヴァイキングの数奇な歴史は、
  我々の想像力をかきたてて止まない。

  そうしたスケールの大きな話とあわせて、主人公トルフィンの成
  長物語、彼が父親トールズの仇として挑み続けるアシェラッドの
  男っぷりもまた見逃せない。続きが楽しみなマンガのひとつである。

posted by 半端者 at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月17日

「坂の上の雲」に隠された歴史の真実

書名:「坂の上の雲」に隠された歴史の真実〜明治と昭和の虚像と実像
著者:福井雄三
出版:主婦の友社
内容:司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」は超ベストセラーであり、国民文
  学といっても良い作品である。この小説が日本国民の精神に及ぼし
  た影響は計り知れぬほど大きいと思われる。それは他の司馬文学と
  あわせ、日本人の心に勇気と誇りを与えてくれた作品であり、これ
  らから「司馬史観」という言葉も生まれた。

  筆者は以上を認めたうえで、小説である以上史実の捉え方において
  問題点があることを指摘しなければならないとする。本書では、司
  馬史観の功罪について触れ、それを契機に戦後60年経った現在の時
  点で、戦後のすりこみ教育や偏見に毒されない曇りない歴史認識を
  提示したい。

感想:「坂の上の雲」におけるひとつの特徴に、旅順攻防戦における乃
  木将軍への厳しい評価がある。武人としての人格こそ高く評価され
  ているものの、203高地という戦略上の要衝を軽視し続けたがゆ
  えにいたずらに犠牲を増やしてしまった愚将であると。

  本書は、その描き方を司馬遼太郎のストーリーテラーとしての想像
  力が片方に偏りすぎたがゆえの一方的な見方であり、「詳細に分析
  すれば的外れである」と主張している。

  無謀な肉弾攻撃というのは実際には強襲法と呼ばれる、砲兵の火力
  制圧と歩兵突撃の2段階からなる極めて近代的手法であったし、そ
  れが失敗に終わった後の戦術もかなり多彩に行っている。要塞を放
  置してでも旅順港内の戦艦を撃沈してしまえば、あとは奉天へ異動
  してもよいというのは暴論であって、何が何でも旅順を陥落させる
  必要はあった。

  乃木はむしろ、過酷な条件下でも決して動揺することなく将兵をし
  っかりとまとめ続けた類まれな指導力を発揮していたのだ。児玉が
  一時的に指揮をとったあとただちに203高地を取ることができたの
  も、その後の旅順攻略がすんなり行ったのも、結局前段の犠牲あっ
  たればこそ。本書ではこのように述べ、乃木がダメで児玉が良いと
  いったいたずらに勝敗の原因を善悪ニ元論的に単純化してしまうこ
  との危険性を指摘している。

  筆者はこのようなスタンスで、ドイツの第一次世界大戦敗戦の後の
  ヒトラー登場とユダヤ人大迫害について、ヒトラーおよびナチスの
  みを悪玉として断罪することも批判の対象とする。当時のドイツに
  おける「ドイツの敗戦は国内のユダヤ勢力の裏切りのせいだ」とす
  る一面的な世論(それは当時のヨーロッパにおける根強い偏見から
  のものといえよう)が、ひいてはあのホロコーストの元凶となった
  点を指摘する。

  さらには筆者は、ノモンハン事件を描いた半藤一利氏の「ノモンハ
  ンの夏」についても取り上げている。一般に同事件は日本陸軍がソ
  連の機械化戦車部隊により惨敗を喫した戦いとされており、まさに
  「ノモンハンの夏」でもそうしたスタンスで描き昭和における日本
  陸軍の無能さを強調している。

  しかし、これも筆者によれば、ソ連崩壊にともない明らかとなった
  資料によれば実は戦争としては大勝利といってもいい(実に10倍の
  戦力を相手に奮戦し、全滅することなく持ちこたえた)という。敗
  北したのはむしろ、ひとえに平和外交に徹しようとした外交戦略が
  却って裏目に出て、外交で敗れた形になったのだと。

  筆者は以上の例を踏まえ、昭和初頭の日本をいたずらに暗黒時代と
  みなすのを自虐史観と称して(#)批判するのだが、ここまで見解が異
  なるともはや、専門の歴史家ではない私にはどちらが妥当な主張な
  のか、確言できそうにない。例え単純なことでも、歴史を客観的に
  評価することの難しさをつくづく思い知らされた。

(#)この用語を好んで使っているところからして、有名な「つくる会」系の人なのだろうか・・・
 だからといって逆方向からの偏見でこの本を読むべきでない。一つの貴重な意見として受け止める
 べきだ。
posted by 半端者 at 11:41| Comment(0) | TrackBack(2) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

靖国問題

半端者は基本的にノンポリであるが、本書は相当程度説得力のある論考であり、紹介に足るものだと思う。

書名:靖国問題
著者:高橋哲哉
出版:ちくま新書
内容:21世紀の今も、なお「問題」であり続ける「靖国」。「A級戦犯合
  祀」「政教分離」「首相参拝」などの諸点については今も多くの意見
  が対立し、その議論は多くの激しい「思い」を引き起こす。だが、
  その「思い」に共感するだけでは、あるいは「政治的決着」を図る
  だけでは何の解決にもならないだろう。

  本書では、靖国を具体的な歴史の場に置きなおしながら、それが
  「国家」の装置としてどのような機能と役割をになってきたのかを
  明らかにし、犀利な哲学論議で解決の地平を示す。決定的論考。
  (以上裏表紙の解説より)
感想:とかく遺族関係の感情的なしこりばかりが報道される靖国問題。特   に、国外からの感情的反発が主に報道されているが、一方で日本の戦
  争遺族会側の論調の粘着質な感情論もはなはだしいものがある。本書
  に引用されている靖国神社側に立つ遺族の論告を読むと、まるきり韓   国・中国のヒステリックな論調を裏返したようなものであった。

  本書はこういった感情の問題が大きいことを踏まえたうえで、あくま
  でも論理的に、そもそも靖国神社の成り立ちからその機能を分析し、
  また多くの意見についても検討を加えている。その結果、国家の名の
  下に国民の命をささげることを正義とし、肉親を失う「悲哀」を「進
  んで命を捨てる喜び」に転化するように組織的な洗脳を行う「装置」
  としての靖国神社のおぞましい姿が、客観的に明らかになってくる。

  これを読んだとき、もはや「A級戦犯を分祀すればいい」などという
  韓国・中国政府筋からの意見ですら所詮政治的決着以上のものでは
  ないということがよくわかる。

  筆者はさらに、遺族の分祀要求にすら応じようとしないその硬直的な
  態度が「信教の自由」に基づき正当化されていることの不合理性を
  指摘し、その上で、概ね次のように提言している。

  「靖国神社は、名実ともに国家機関としての性質を完全に排除すべき
  である。首相参拝や天皇参拝といった政治的癒着を排除すべきであ    る。」
  「A級戦犯であるかどうかではなく、合祀廃止を求める遺族の要求に
  基づく分祀に応じること。靖国側の信教の自由という名目のもとに
  遺族の権利を侵害することは許されない。」
  「靖国遊就館の展示に代表される、近代日本のすべての戦争をむやみ
  に美化し、正義の戦争と断定するような歴史観は、自由な言論により
  克服していくべきである。」
  「『第二、第三の靖国』出現を阻止するために、非戦の誓いを継続し
  ていくための不断の努力が求められる。」

  以上が実現されて初めて、靖国神社は「そこに祀られたいと遺族が望
  む戦死者のみ、を祀る一宗教法人」として存続することができる、と。

  この主張は、靖国神社側の公式見解に対する、実に強力な反論になっ
  ていると思う。実際、分祀が信教上できない、と断じているのは靖国
  神社という法人なわけだが、そもそも、信教の自由を法人である靖国
  神社が持っているのだとしても、それが自然人である遺族個人の信教
  上の自由と同等以上の重みがあるはずはない。もしそれを認めるなら、  それは宗教の名の下に行われるファシズムになってしまう。

  理性ある市民なら、是非一度この視点で問題を見直すべきだと考える。

バランスを取る為もう一言
posted by 半端者 at 09:24| Comment(0) | TrackBack(2) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月29日

スペースシャトルの落日

書名:スペースシャトルの落日
著者:松浦晋也
出版:エクスナレッジ
内容:NASAの技術の粋を結集して作られたスペースシャトルではあるが、
  ごく客観的にその成果を見た場合宇宙船として巨大な失敗作であった
  といわざるを得ない。
  本書では、スペースシャトルの全貌を虚心に見直してその計画に潜む
  問題点を指摘し、「大半が再利用可能な機体」という新たな技術的冒
  険を重視するあまり、本筋である安全・安価な宇宙ロケット技術の成
  熟化という課題の達成がなされなかった点を指摘する。

  そして、その重大なコンセプトの欠陥を認めぬままシャトルにこだわ
  り続けたことが宇宙技術の停滞を招き、世界各国もその停滞に巻き込
  まれたと論じる。その上で、とにかく確実な技術をもとに着実に宇宙 
  開発の実績を積み上げることこそが肝要であり、一刻も早く方向転換
  すべきだと主張している。

感想:天かける翼というイメージを起こさせるスペースシャトルの姿に、
  宇宙への限りないあこがれをかきたてられた人たちは数多い。私もそ
  の一人である以上、この本の内容は大変耳の痛い、苦痛に満ちた内容
  である。だが、チャレンジャーの爆発事故・コロンビア号の大気圏突
  入事故という2つの悲惨な事故と、それから明らかとなったシャトル
  技術そのもののあやうさは、もはやかくしようもない。合衆国自身、
  ようやっとスペースシャトル運行の収束を決断しているところである
  以上、日本でも一刻も早く「今できる技術で、今から着実に実績を伸
  ばす」という原点に返って宇宙開発事業を立て直すべきだろう。

  ちなみに自他共に認める宇宙マニアであり、恐らくはシャトルに対す
  る思いいれも人一倍であろうSF作家の笹本裕一氏もあとがきを書い
  ており、宇宙開発の復権を願う思いがひしひしと伝わってくる。

  書評の順序からするとちょっと紹介が早めなのだが、おりしもディス
  カバリーが打ち上げられながら様々な問題が指摘されている中、タイ
  ムリーかと思い本書を紹介する(2006年7月31日当時)。

  なお私見だが、実際問題として今回報道されている耐熱パネルの
  損傷 は、コロンビア以外の無事成功したフライトでも何度か起き
  ていた可能性が高い。よって今回のディスカバリーがとりわけ危険
  性が高い、というわけではないと考える。もちろん、決定には慎重
  の上にも慎重を期さねばならないが。
(追記:もちろんご存知の通り、この時のフライトでディスカバリーは
  無事帰還することができた。これからの取り組みに期待したい。)
posted by 半端者 at 10:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

複雑な世界、単純な法則

書名:複雑な世界、単純な法則
著者:マーク・ブキャナン/阪本芳久 訳
出版:草思社
内容:宣伝文より〜つい最近、科学者たちは歴史上初めて、世界の様々
  な事象をネットワークの視点から論じる方法を手に入れた。この
  「ネットワーク科学」は非常に強力だ。単純ともいえるその根本を
  理解するだけで、自然科学はもとより、経済学、社会学などのあら
  ゆる分野の難問に、重要なヒントが得られる。それも、たちどころ
  に。いままさに科学に革命を起こしつつあるネットワーク科学の最
  前線を解説する。
感想:歴史物理学なるものの可能性について論じた前著「歴史の方程式
  〜科学は大事件を予知できるか」からさらに踏み込んで、ブキャナ
  ン氏は複雑ネットワーク理論の考え方が様々な事象の分析に用いら
  れることを丁寧に紹介している。

  もっとも古くから研究されているスモールネットワークのクラスタ
  ー問題の基本を改めて説明するところから始めて、具体的な例とし
  て蛍の点滅のシンクロ現象、インターネットのノード構造とウェブ
  ページのリンク構造、生態系の食物連鎖のつながり、生物を構成す
  るたんぱく質間の相互関係、果ては経済活動において貧富の差が広
  がる原理に至るまで、いたるところにスモールネットワークの性質
  による説明が可能な現象が見られるというのは、まさに圧巻である。

  極めて単純な法則であるがゆえに、いかなる複雑な現象世界におい
  てもその原理が底流において影響するのだということがよく分かる。

  ただ、当然ながらこの理論が万物を説明しているわけではない。あ
  くまで、複雑きわまる世界を特徴づけるルールのなかの単純なもの
  のひとつに過ぎないということは常に頭においておくべきであろう。

posted by 半端者 at 10:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月10日

大学院での勉強準備

いよいよ大学院でのカリキュラムが分かってきて、購入しないとまずそうな教科書もはっきりしてきた。以下はその一部。
posted by 半端者 at 02:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月04日

日露戦争史〜20世紀最初の大国間戦争

書名:日露戦争史〜20世紀最初の大国間戦争
著者:横手慎二
出版:中公新書
内容:日露戦争が世界全体の歴史においてどのような意味を持つ戦争であったのかに
  ついて、現在でもなかなか評価が確定していない。本書では、日本だけでなくロ
  シア近現代史の視点から、この戦争の背景・経過・影響を論じている。

  その結果、日露戦争が単に満州や朝鮮半島といった一地域を巡る利権争いという
  に留まらず、第一次世界大戦に先立ち史上初めて大国同士が組織として総力を挙
  げて戦った、近代的戦争と位置づけられることが、明らかになってきた。

感想:日露戦争といえば、やはり司馬遼太郎の「坂の上の雲」を忘れることはできな
  い。現在、NHKでは平成19年度以降の完成を目指して大河ドラマ化へ向けて
  準備を進めているそうだ。その完成が楽しみである。本書は新書一冊で当時の歴
  史的背景・経過・影響を実にコンパクトにまとめた歴史書になっており、ドラマ
  ができる前に読んでおく価値はある。

  とかくと、いかにもお手軽な本のように思われるかもしれないがそんなことはな
  い。基本的に登場人物の織り成す物語である「坂の上の雲」と異なり、国家全体
  の動き・国際社会の動向について背景から詳しく解説しており、熟読すると相当
  に時間のかかる難物であった。実は「坂の上の雲」の前に一度読んでおり、読了
  後再度目を通してみたが、本書のほうがより冷静に当時の両国を説明していると
  感じた。
posted by 半端者 at 02:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

巨翼の海原(上下)

書名:巨翼の海原(上下)〜連合艦隊加州戦記
著者:橋本純
出版:銀河出版
内容:ドイツの航空工学の奇才・ドクターリピッシュを日本に亡命させることに成功
  した、別な歴史を歩む日本。彼の天才的なアイデアは、グラウンドエフェクトを
  フルに活用した驚異的なペイロードを誇る超巨大飛行艇を完成させた。彼の亡命
  を画策した天才的戦略家である石原莞爾の野望は、ついに超巨大飛行艇部隊によ
  る、米国本土進攻を可能にしたのだ!

  歴史上初めて外国からの軍事侵攻を受けた、共和党のルーズベルトではなく民主
  党が政権を取っている米国の混乱と、崩壊。奇想天外、驚天動地、言語道断な妄
  想戦記。

感想:リピッシュ博士というのは実在の人物で、「巨大な機体で超低空を飛行するこ
  とで高度な安定性を持つ」航空機を構想したのも本当らしい。もしできたら面白
  かったとは思うが、いくらドイツから無制限に最高水準の頭脳流入を図ったから
  といって当時の日本のインフラ整備の遅れを埋めて、これほどの航空機を量産で
  きるはずもなし。

  妄想も妄想。デタラメもいいところの小説である。しかし、今の傲慢極まるアメ
  リカのことを思うと、天才的戦略家たる石原莞爾にいいように手玉にとられた
  かの国が、右往左往して世界から信用を失い、国際社会のトップから無様に脱落
  していく様は、妄想小説ながら大変痛快であった。
ついでに一言
posted by 半端者 at 02:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月26日

キリスト教は邪教です!〜現代語訳「アンチクリスト」

書名:キリスト教は邪教です!〜現代語訳「アンチクリスト」
著者:F.W.ニーチェ/適菜収・訳
出版:講談社α新書
内容:1844年に生まれ、19世紀最後の年1900年に没した天才的哲学者F.W.ニーチェ
  が1888年に書き上げた、20世紀哲学界に計り知れない巨大なインパクトを与えた一
  冊。実存主義の見地から、西欧社会における精神的支柱として2000年間も続いてき
  たキリスト教を徹底的に批判し、これを人類社会においてあらゆる不幸をまきちら
  した害毒であるとして切り捨てた、恐らくは当時としてはすさまじいほどに衝撃的
  な本。難解な文語的表現で書かれたオリジナルを、若き哲学者が現代語へ大胆に翻
  訳した。
感想:十字軍による数多くの文化破壊や、アメリカ大陸において行われた神の名の下で
  の大量虐殺と文明破壊。理性を持って世界を見ることを否定し、ただ盲目的に教会
  の権威に頭を垂れることのみを強制し、それに疑問を呈するものには容赦なく残虐
  な仕打ちをすることを奨励してきた、血塗られた教会の歴史。それらを見ればキリ
  スト教の戦闘的性格がよくわかる。

  しかし、19世紀末において既に、キリスト教そのものが持つ不合理性・欺瞞・卑劣
  さに対するこれほどまでに的確な批判が、それもキリスト教の影響下にあるヨーロ
  ッパ世界に生きた哲学者によりなされているということは、新鮮な驚きである。
  100年も前に、キリスト教原理主義者の危険性・ジョージブッシュ大統領の暴虐を
  予言している、現代人にとって是非読んでおくべき本であると思う。(翻訳という
  フィルターの存在を忘れてはいけないが・・・)

  しかし、もちろん内容を無批判に読むべきではない(ニーチェ自身、これを鵜呑み
  にするような読み方は望まないに違いない!)。理性的思考を過度に重んじる余り
  人間の弱さに対する寛容な見方を乱暴に切り捨てているところには、納得しがたい。
  キリスト教の不合理な精神性を非難しながら、一方で合理的な判別ができるとは限
  らない「高貴な精神の有無」の名のもとに先験的な階級差別をする不合理性にも警
  戒すべきである。

  そのほかあからさまなユダヤ人排斥が恐らくはヒットラーの思想的支柱となったこ
  とは明らかである。以上の疑問点があるものの、問題意識の本筋には大いに共感で
  きる。
posted by 半端者 at 02:01| Comment(0) | TrackBack(1) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか

書名:怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか
著者:黒川伊保子
出版:新潮新書
内容:宣伝文より〜ゴジラ、ガメラ、ガンダム等、男の子が好きなものの名前にはなぜ
  濁音が含まれるのか。カローラ、カマロ、セドリックなど、売れる自動車にC音が
  多いのはなぜか。キツネがタヌキよりズルそうなのはなぜか。全ての鍵は、脳に潜
  在的に語りかける「音の力」にあった!

  脳科学・物理学・言語学を縦横無尽に駆使して「ことばの音」のサブリミナル効果
  を明らかにする、まったく新しいことば理論。

感想:コピーライターは、長年の経験とカンにより「売れる商品」のキャッチフレーズ
  や商品名を作るための独特なノウハウを蓄積しているが、その根拠はなかなか体系
  的に明らかにはなっていない。

  そこで著者は、これらの根拠を「ことばの意味論的分析」ではなく、「ことばの音
  が脳に直接働きかけた結果生じる印象の質」(クオリア)と、「クオリアの組み合
  わせにより潜在脳(右脳)へ与える印象」(サブリミナル・インプレッション)の
  関係により説明できるとし、まず各種母音・子音が口蓋内で発音される際に生じる
  物理的な刺激がもたらす興奮をクオリアとして特徴付ける。そして実際の単語につ
  いてのサブリミナルインプレッションを、16のイメージ語群に対応する傾向の強
  弱からなるレーダーチャートとして表示し分析する「イメージ分析法」を提唱して
  いる。

  さらに筆者は、このサブリミナル・インプレッションの研究は子音と母音が常時セッ
  トになっており、かつ音素が5母音×10子音(子音をつけない状態も含めて)とい
  う数学的体系を持つ日本語でこそ効果的にできる、とも書いている。その他日本語
  は母音単独で意味を持たせることのできる他に類のない言語であること、濁音と清
  音という子音の区別がクオリアと対応していることなどを、「日本語のすばらしさ」
  であるとし、その精密さに比べれば英語は極めて粗雑であるとすら主張している。

  その辺になると少々日本語礼賛が過ぎる気もするが、ともかく他に類のないユニー
  クな言語分析であるとは言えそうだ。個々の音素が持つクオリア間の相互作用につ
  いては、少々恣意的にも見えるのでさらに多くの実証データをそろえる必要がある
  と考える。特に、音素と脳内興奮パターンの相関関係についてもっと詳しいデータ
  が必要ではないかと思われる。
posted by 半端者 at 00:28| Comment(0) | TrackBack(1) | 硬めの書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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